いちご「とよのか」の簡易土壌溶液診断指標値


[要約]
  土壌含水比と土壌溶液中硝酸態窒素濃度を測定することにより、土壌中の硝 酸態窒素含量が推定できる。また、いちご「とよのか」の安定生産のための壌質土 壌における適正な土壌溶液(pF1.7 で採取)中の硝酸態窒素濃度は、9月中旬から 1月までは60〜200ppm、2月以降は60〜330ppmである。    

生産環境研究所・化学部・土壌管理研究室
[連絡先]  092-924-2939
[部会名]  生産環境
[専門]    土壌
[対象]   果菜類
[分類]    指導


[背景・ねらい]
 平成5年度農業関係試験研究の成果においていちごの安定生産のための適正な無機態窒素含量(大部分硝酸態窒素)は、9月中旬から1月までは2〜6mg/100g、2月以降は2〜10mg/100g であることを明らかにした。同法による土壌診断では土壌を採取する必要があるのに対して、土溶液診断では同一地点で継続的、非破壊的に診断できる利点がある。最近、簡易な土壌溶液採取装置並びに簡易で正確な診断機器が開発され、現地での診断が可能となった。そこで、同機器を効果的に活用して、簡易な土壌溶液診断技術を確立する。

[成果の内容・特徴]
@基肥で施用される有機質肥料中の有機態窒素が無機化され、アンモニア態となった窒素は硝酸化成作用により、2週間余り経過後の9月下旬にはほとんど硝酸態窒素に変化する(表1)。

A 1:5水抽出による土壌中硝酸態窒素量は1N塩化カリウム(公定法)によって抽出される量にほぼ等しく、土壌中の硝酸態窒素は、ほぼ完全に土壌溶液中に溶出する(図1)。

B土壌溶液中の硝酸態窒素濃度と土壌含水比は反比例の関係にあるため(図2)、土壌含水比(x%)と土壌溶液中硝酸態窒素濃度(yppm)を測定することにより、土壌中の硝酸態窒素含量(amg/100g)が推定できる。これらの関係は、a=xy/1,000で表わされる。この値と土壌硝酸態窒素含量の指標値(Amg/100g)の差を追肥量の目安とする。仮比重を 1.0、作土深10cmと想定した場合の窒素追肥量(Nkg/10a)は次式で表わされる。 
     N=A−xy/1,000

Cいちごの高品質・安定収量を得るための適正な土壌中無機態窒素含量(9月中旬から1月まで2〜6mg/100g、2月以降は2〜10mg/100g)から換算すると、壌質土壌(圃場容水量;含水比30〜35%の場合)における土壌溶液中硝酸態窒素の適正な濃度は、9月中旬から1月までは60〜200 ppm、2月以降は60〜330ppmとなる。

[成果の活用面・留意点]
@野菜施肥基準に登載し、いちごの土壌溶液診断のための基準値として活用できる。

A黒ボク土は硝酸態窒素などの陰イオンを吸着するため、この結果は活用できない。

B土壌含水比はグリセロール−屈折計法(土壌中の水分を抽出したグリセロール液の屈折率を糖度計で測定し、土壌含水比を推定する方法)で簡易に測定できる。

C土壌溶液は土壌溶液採取器(DIK8390)で、かん水24時間後に採取し、硝酸態窒素濃度は硝酸試験紙法(Merck社RQflex)で測定する。

D追肥後10日以内の調査はさける。


[具体的データ]

   表1 時期別土壌溶液中の無機態窒素濃度(平成5年)

  注)@使用肥料:とよのか専用配合
    A施肥日:9月4日
    B基肥窒素施肥量(s/10a):1区;10,2区;20,3区;40   


    
  図1 1NKClと水抽出による土壌中の       図2 含水比と土壌溶液中の硝酸態窒素
     硝酸態窒素含量の関係                濃度との関係



             図3 簡易土壌溶液診断のフロー


[その他]  
研究課題名:いちごの土壌溶液診断
予算 区分:経常  
研究 期間:平成6年度(平成5〜6年)  
研究担当者:小田原孝治、渡邉敏朗、藤田 彰、黒柳直彦 
発表論文等:平成5〜6年度 生産環境研究所化学部秋冬作試験成績概要書