CTV弱毒系統「HM−55」の接種による強毒系統感染の防止効果


[要約]
 カンキツ「清見」にカンキツトリステザウイルス(CTV)弱毒系統HM−55を接種すると、強毒系統の感染の防止効果がある。「森田ネーブル」及び「ワシントンネーブル」に対しては感染防止効果が見られない。HM−55接種による樹勢低下や果実品質への悪影響は見られない。     
果樹苗木分場・無病苗育成研究室      
[連絡先] 09437-2-2243
[部会名] 園芸
[専門]   栽培
[対象]  果樹類
[分類]  指導


[背景・ねらい]
 カンキツ「清見」や「森田ネーブル」、「ワシントンネーブル」ではCTVの感染による樹勢衰弱・果実の小玉化等の問題が生じている。CTVはミカンクロアブラムシによって感染するため、ウイルスフリー化をするだけでなく、弱毒ウイルスによる干渉効果を利用して強毒系統再感染を防止する必要がある。このため、弱毒系統HM−55(ハッサク由来CTV−SP)接種樹の生育及び果実品質に及ぼす影響及び強毒系統の感染防止効果を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
@弱毒系統HM−55を接種した現地栽植の「清見」は、本病の特徴であるステムピッティングの発生が少ない(図1)。また、観察では生育が旺盛で、現地栽植の「森田ネーブル」や「ワシントンネーブル」に比べて樹容積も比較的拡大しており、1果重は網室内栽植に比べるとやや小さいが糖度が高く、品質良好である(表1)。

A弱毒系統HM−55を接種した現地栽植の「森田ネーブル」及び「ワシントンネーブル」では、ステムピッティングが多発しており、年を経るごとに増加している(図1)。また、生育が劣り樹容積が小さく、さらに「ワシントンネーブル」では網室内栽植に比べて小玉化が著しい i表1)。

B虫媒感染を防止した網室内の弱毒系統HM−55接種の「清見」、「森田ネーブル」及び「ワシントンネーブル」では、ステムピッティングの発生が少ない(図1)。また、現地栽植に比べて生育が旺盛で樹容積も拡大しており、やや糖度が低いが1果重が大きく外観良好で果肉歩合もあまり差がなく品質良好である(表1)。これらのことから、HM−55が樹勢を弱めて果実を小玉化させる等の悪影響は見られない。

[成果の活用面・留意点]
@干渉効果を期待して弱毒接種を行う場合の指導資料とする。

A強毒系統感染の防止効果が何年間持続するかは明らかでない。

Bウイルスフリー化後、弱毒系統HM−55接種樹は普通樹に比較して生育が旺盛になるため、施肥量を減じ、剪定は弱めに行い、結果母枝の誘引等を行って着花及び着果量の確保に努める必要がある。


[具体的データ]



  図1 ステムピッティング発生度の年次変化



  注)@定植:昭和61年4月に4年生樹を植え付け
     清見(現地)及び森田ネーブル(現地)は無加温ハウス栽培
     ワシントンネーブル(現地)は露地栽培


[その他]
研究課題名:ウイルスフリー樹の生産性比較
予算 区分:経常 
研究 期間:平成6年度(昭62〜平6年) 
研究担当者:鶴丈和、堀江裕一郎、草野成夫、野口保弘 
発表論文等:昭63〜平6年度果樹苗木分場試験成績書