福岡農総試研報16(1997)
スプレードライヤーで乾燥した茶蒸熱葉搾汁液の粉末を胴回転式火入機で火入することにより,効率的に粉末状インスタント緑茶を製造する方法を開発した。本法は従来法よりも工程数が少なく,また茶可溶分 1 g当たりの加熱に要する熱量も従来法の 3,046kcal / gに対して 825kcal / gと少なかった。本法で製造したインスタント緑茶は,茎部と葉部を分離しない原料から常温で可溶分を得るために,従来法によるものと比べて全窒素含量が高く,タンニン及びカフェイン含量が低かった。また,本法は加熱工程及び加熱時間が少なくて済むことから,製品中のアスコルビン酸含量は高く保持された。
[キーワード:茶,インスタント緑茶,茶蒸熱葉搾汁液,製茶法]
A Manufacturing Method for Powder-Type Instant Green Tea from Squeeze
of Steamed Tea Shoot. MORIYAMA Hironobu (Fukuoka Agricultural Research
Center, Chikushino, Fukuoka 818, Japan) Bull. Fukuoka Agric. Res. Cent.
16:31-34(1997)
An efficient manufacturing method of powder-type instant green
tea was developed; it is by heating spray-dried powder from squeeze of
steamed tea shoot in a drum-roll-type heating machine. This method has
fewer steps in the production process than conventional method, and needs
less heating energy, 825 kcal/g in contrast to 3,046 kcal/g by the conventional
method. The tea produced by this method contains a larger content of nitrogen
and a smaller content of tannin and caffeine than that produced by the
conventional method because it obtains its soluble matter by infusing stem-leave
mingled material at room temperature. The tea further contains a larger
content of ascorbic acid because this method has fewer heating steps and
less heating time in its process than the conventional method does.
[key words: tea, instant green tea, squeeze of steamed tea shoot, manufacturing
method of tea]
緒 言
緑茶は日本人にとって日常的に飲用するものであるが,急須を用いなければならないことや茶殻の処理が必要なことなどから,リーフ形態の茶は,特に若年層を中心に敬遠される傾向にある。しかしながら,近年の缶入り並びにペットボトル入り緑茶の開発,製造は目を見張るものがある。このことは,簡便に利用できる形態の茶であれば新しい需要が見込まれることを示している。従来の粉末状インスタント緑茶の製造法は,古谷ら1−6)によりその基礎が確立され,現在では高品質で可溶分濃度の高い仕上茶抽出液を得る方法11,15)や香味の改善7,16−17)に研究の主眼が置かれている。しかしながら,これらの方法では抽出液を得るために一般的に荒茶や簡易仕上茶を用いるので工程が多く,投入熱量も非常に大きい。
これらのことから,効率的に粉末状インスタント緑茶を製造する方法について検討し,茶蒸熱葉搾汁液を利用することによって少ない工程で粉末状インスタント緑茶を製造する方法を開発したので報告する。
試 験 方 法
1 供試原葉
1995年9月14日に八女分場で摘採した茶生葉(品種‘ごこう’)を供試した。
なお,原葉の部位別の呈味に関与する可溶性化学成分含量を茶の化学成分公定分析法9)に従い定量した結果を第
1表に示す。
2 茶葉の蒸熱
茶葉をカワサキ機工(株)製網胴回転攪拌式蒸機 300KE -MR - Kを用いて生葉投入量
4kg / min,蒸気流量80kg /hr,胴角度 1.5°,胴回転数40 rpm,攪拌軸回転数
350 rpmの条件で蒸熱した。
3 簡易仕上茶抽出液を用いた従来法によるインスタント緑茶の製造
従来法1,3−5,13−14)によるインスタント緑茶の製造は,第 1図に示す工程で行った。すなわち,
2kg型製茶機を用いて標準製茶法によって茶蒸熱葉から荒茶を製造後,茎部を分離したものを切断し,(株)宮村鉄工所製胴回転式ミニ火入機を用いて
200 Wで45分間火入して強火入簡易仕上茶を得た。これに重量の 5倍量の熱水を添加し,抽出液を得た。この抽出液に可溶分の
1.5倍量の(株)日澱化学製食品添加用デキストリン・アミコール 6-Lを添加し,ヤマト科学(株)製スプレードライヤーGA32を用いて,入口温度
150℃,出口温度95℃,熱風量0.45m3 / min,噴霧空気量 1.0 kgf / cm2で噴霧乾燥し,インスタント緑茶を得た。
4 茶蒸熱葉搾汁液からのインスタント緑茶の製造
茶蒸熱葉搾汁液からのインスタント緑茶の製造は,第 2図に示す工程で行った。すなわち,茶蒸熱葉と等しい重量の純水を混合し,フードプロセッサで切断後,木綿製織布を用いて手搾りによって茶蒸熱葉搾汁液を得た。この茶蒸熱葉搾汁液に(株)日澱化学製食品添加用デキストリン・アミコール
6-Lを可溶分の 1.5倍量添加し,ヤマト科学(株)製スプレードライヤーGA32を用いて,入口温度
150℃,出口温度95℃,熱風量0.45m3 / min,噴霧空気量 1.0 kgf / cm2で噴霧乾燥し茶可溶分を含む粉末を得た。この粉末を(株)宮村鉄工所製胴回転式ミニ火入機を用いて
200 Wで35分間火入し,インスタント緑茶を得た。
5 インスタント緑茶,茶蒸熱葉搾汁液及び簡易仕上茶抽出液の化学成分分析
茶の化学成分公定分析法9)に従い,可溶分,全窒素,タンニン,カフェイン及びアスコルビン酸を定量した。
6 インスタント緑茶の官能評価
インスタント緑茶 2 gを 200mlの熱湯に溶解し,水色,香気,滋味をそれぞれ10点満点の減点法で
7人のパネラーによる官能審査により評価した。
結 果
従来の製造法は,第 1図に示すように,茶生葉を蒸熱した後に荒茶製造工程,簡易仕上工程を経て得られた簡易仕上茶から可溶分を抽出し,これに多糖類を添加して乾燥するという多くの工程が必要で,加熱に必要な熱量は茶可溶分
1 g当たり合計 3,046kcal / gであった。これに対し,第 2図に示す茶蒸熱葉搾汁液からの製造法では,茶生葉を蒸熱した後は切断,搾汁,多糖類の添加,乾燥,火入と少ない工程でインスタント緑茶を製造することが可能で,加熱に必要な熱量は同じく合計
825kcal/ gであった。
第 1表に示す原葉の可溶性化学成分組成は,簡易仕上茶抽出に用いる葉部と搾汁によって茶蒸熱葉搾汁液を得る茎葉混合との間にほとんど差は見られなかった。
簡易仕上茶抽出液及び茶蒸熱葉搾汁液の化学成分組成を第 2表に示す。全窒素含量及びアスコルビン酸含量は茶蒸熱葉搾汁液の方が高く,タンニン及びカフェイン含量は簡易仕上茶抽出液が高かった。
従来法及び茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶の化学成分組成を第
3表に示す。茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶は,従来法のものに比べ,タンニン及びカフェインの含量が低かったが,逆にアスコルビン酸含量は高かった。
従来法及び茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶の官能審査結果を第
4表に示す。茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶は,木茎臭の指摘があるが香ばしさが従来法に比べて格段に多く,減点の対象とはならなかったのみならず,評価点も従来法に比べ高かった。また,茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶は,水色,滋味の項目でも良好であり,各項目の合計でも従来法によって得られたインスタント緑茶より高い評価を得た。
考 察
従来法によるインスタント緑茶の製造には,荒茶の製造,簡易仕上茶の製造,抽出,乾燥と多くの工程が必要である。これに対し,茶蒸熱葉搾汁液からの製造法では,茶生葉を蒸熱し,切断,搾汁すればスプレードライによる乾燥に供することができるので,製造にかかる工程が非常に少なくて済む。
さらに,インスタント緑茶の製造工程で加熱に要した熱量は,従来法では 3,046kcal
/ gであるのに対し,茶蒸熱葉搾汁液からの製造法では 825kcal / gであった。これは主に荒茶の製造工程を必要としないことによるもので,本製造法は非常に効率的である。
抽出に用いる原葉の可溶性化学成分組成にほとんど差が無いにもかかわらず,蒸葉搾汁液の全窒素含量は簡易仕上茶抽出液に比べて高く,タンニン及びカフェイン含量は低い。これは,簡易仕上茶抽出液は簡易仕上茶を熱水で抽出して可溶分を得るのに対し,茶蒸熱葉搾汁液は常温の茶蒸熱葉に水を添加,搾汁して可溶分を得ていることに起因する。
タンニン及びカフェインは抽出時の温度が高いほど原葉からの抽出率が高くなる8)ことから,簡易仕上茶抽出液において抽出液中の濃度が高いものと推察される。全窒素についてもタンニン及びカフェインと同様の傾向を示す8)ことが報告されているが,抽出液中に存在する窒素とタンニンの比率は低温抽出の場合に高く,高温抽出の場合に低くなる8)ために,蒸葉搾汁液中の全窒素含量は簡易仕上茶抽出液に比べて高いものと思われる。
このようにスプレードライに供する抽出液の可溶性成分組成が異なるために,茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶の全窒素含量は従来法に比べて高く,タンニン及びカフェイン含量は低くなる。
茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶のアスコルビン酸含量は,従来法によるものと比べて高い。これは,製造工程中の加熱工程の違い,すなわち従来法では茶蒸熱葉が荒茶の製造工程及び火入工程と多くの加熱工程を経ることによって多くのアスコルビン酸が破壊されているのに対し,茶蒸熱葉搾汁液から製造する場合にアスコルビン酸が減少するのは火入工程のみであることによる。
茶蒸熱葉搾汁液からインスタント緑茶を製造することにより,製品中のタンニン及びカフェイン含量を少なくできることは,渋味や苦味が多い原葉であっても製品においてはそれらを緩和させることが可能であり,夏茶のような苦渋味の多い茶葉10,12)であっても適度な苦渋味にできることを示唆するものである。さらに,アスコルビン酸含量を高く保持できることは,健康面でも好ましいものである。
茶蒸熱葉搾汁液からの製造法では,最後の工程である火入により,スプレードライまでの工程で得られた粉末から青臭みが取り除かれ,加熱による香気が付与され,緑茶として美味しく飲用できるようになる。製品の香気は,茎部を分離していないために木茎臭の指摘を受けたが,抽出及び抽出液の乾燥工程で香気が逸散する7)従来法に比べ,最後に香味を整える本法では香ばしさがそれを補い,インスタント緑茶としては優れたものであった。
原料に苦渋味が多い夏茶 10,12)を用いているものの,茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶の滋味は,苦渋味が緩和されたまろやかな味となっている。しかしながら,茎部を分離していないために木茎味があることから従来法のものと同等の評価となった。
官能審査各項目の合計点数は,茶蒸熱葉搾汁液から製造したインスタント緑茶の方が従来法よりも高く,茶蒸熱葉搾汁液を利用した製造法によって従来法に劣らぬ品質のインスタント緑茶を製造できる可能性が示された。
引 用 文 献
1) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1960)インスタントティーに関する研究(予報).茶業研究報告16:60-64
2) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1963)インスタントティーに関する研究(第
1報).茶抽出液中の固形分量の迅速測定法について.茶業研究報告20:38-40
3) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1963)インスタントティーに関する研究(第
2報).煎茶の抽出法について.茶業研究報告20:41-47
4) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1964)インスタントティーに関する研究(第
3報).ほうじ茶の抽出法について.茶業研究報告21:65-69
5) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1964)インスタントティーに関する研究(第
4報).原料茶製造に関する 研究.茶業研究報告21:70-72
6) 古谷弘三・原利男・久保田悦郎(1964)インスタントティーに関する研究(第
5報).茶抽出液の真空乾燥について.茶業研究報告21:73-76
7) 原利男・久保田悦郎(1971)インスタントティーに関する研究(第 6報).香気成分の回収に関する調査.茶業研究報告35:65-68
8) 池田重美・中川致之・岩浅潔(1972)煎茶の浸出条件と可溶成分との関係.茶業研究報告37:69-78
9)池ヶ谷賢次郎・高柳博次・阿南豊正(1990)茶の分析法.茶業研究報告71:43-74
10) 岩堀源五郎(1966)茶期による緑茶浸出液の成分.茶 19:62-65
11) 小林利彰・川勝孝博・中嶋光敏(1995)緑茶逆浸透濃縮を目的とした清澄化処理に関する検討.茶業研究報告82(別冊):2-11
12) 前田茂・中川致之(1977)各種緑茶の総合的理化学分析.茶業研究報告45:85-92
13) 村松敬一郎(1991)茶の科学.朝倉書店,pp75-76
14) 静岡県茶業会議所編(1996)新茶業全書.静岡県茶業会議所,pp387-390
15) 特開平3-108445茶の製造方法
16) 特開平5-304890粉末インスタント茶の製造法
17) 特開平6-296457即席粉末茶の製造方法