福岡農総試研報16(1997)

反応染料によるイグサの染色
第2報 染色方法の改善

許斐健治 1)・村上康則 2)

(筑後分場)

1)現生産環境研究所
2)現北筑前地域農業改良普及センター


 日光堅ろう度と摩擦堅ろう度に優れた反応染料によるイグサの染色法において,染色釜の種類,染色液温度,染色釜へのイグサの入れ方及び水切り時のイグサの立て方について検討し,次のことを明らかにした。
 1 染色釜は,横釜よりも縦釜が良かった。横釜では,イグサに対する染色液の重量比(浴比)を 1:20,イグサ重量に対する染料重量%(染料濃度)を 4%として, 2時間   加温後 2時間放置で染色できた。縦釜では 沸騰した染色液にイグサを 2時間浸漬することで,横釜と同等の染色ができ,短時間で効率的であった。
 2 縦釜では,沸騰した染色液を注入後30分間加温したり,断熱材で保温しても染着程度の向上は認められなかった。一方,染色液注入30分後に染色液を冷却すると,染  着程度が向上した。
 3 縦釜にイグサを入れる時は,イグサの根元を下にして入れ,染色後水切りする時も根元を下にして立てておく方が良好に染まった。

  [キーワード:イグサ,染色,反応染料,横釜,縦釜]

    Dyeing Method of Mat Rush using Reactive Dye. (2) Improvement of Dyeing Method. KONOMI Kenji and Yasunori MURAKAMI (Fukuoka Agricultural Research Center,Chikushino, Fukuoka 818, Japan) Bull.Fukuoka Agric. Res. Cent. 16: - (1997)  
    Mat rush dyed by reactive dyes is superior in the color fastness to light andthe color fastness to rubbing. We examined the improvement of dyeing method format rush using reactive dye.
    A vertical tank was better than the lateral tank. Mat rush was dyed well by the method as follows using the lateral tank. Ratio of mat rush and dyeing liquor was 1:20 and the concentration of dyeing liquor was 4%. Mat rush was boiled for 2 hours and then kept for 2 hours without heating. Mat rush was also dyed well for 2 hours using the vertical tank. Although mat rush was heated and kept warm in vertical tank, the degree of exhaustion were not able to be advanced.
    The degree of exhaustion advanced when mat rush was soaked in boiled dyeing liquor for 30 minutes and then cooled the dyeing liquor. The degree of exhaustion advanced when mat rush was put into the vertical tank from the base of mat rush than the top of mat rush.

[Key words : mat rush, dyeing, reactive dye, lateral tank, vertical tank]  


緒  言

  現在,イグサの染色には塩基性染料が使用されている。この染料はイグサに容易に染着し,しかも色調が鮮明で,染色コストも安いなどの長所があるが,日光堅ろう度と摩擦堅ろう度が弱いために,退色しやすく,また,色うつりしやすい欠点がある1)。
  この欠点を解消するために,各種染料について検討した結果,前報4)では,反応染料で染色したイグサの日光堅ろう度及び摩擦堅ろう度が塩基性染料に比べてかなり優れていることを認めた。しかし,イグサは反応染料に染まりにくいため,実用化に当たっては,濃く染まり色むらの少ない染色方法を確立する必要がある。
  反応染料は,1956年にセルロース繊維用染料として,それまでにない共有結合によって染着する染料として開発され,国内では,セルロース用としては最も使用量が多い。
  現在、イグサの染色は,横釜を用いて加温する方法で行われている。当初,この方法で試験を行い,反応染料を用いたイグサの染色方法を確立できたが,塩基性染料に比べて長時間を要することが分かった。このため,染色時間を短縮化するために,染色釜の種類や染色液温度がイグサの染色に及ぼす影響について検討を加えた。さらに,染着程度の向上を図るために,染色釜へのイグサの入れ方及び水切り時のイグサの立て方についても検討した。

試 験 方 法

 供試した反応染料は,試験1,2では赤色のCelmazolBrilliant Red 8B(Red ),青色のReactive Navy BlueKS(Blue),黄色のCelmazol Yellow 4GE-CF(Yellow)である。試験3では,CelmazolBrilliant Red 3BE-CFのみを供試した。

 試験1 染色釜の種類と染色法
 横釜と縦釜の2種類について,染色法の比較を行った。横釜は,第1図 (a)に示すように,長さ 120cm,幅60cm,深さ50cmのステンレス製である。バーナーで釜の底部を加熱して染色液を沸騰させ,イグサを入れて,さらに加温を続けて染色した。
 長さ 110cmのイグサを樹脂袋に 2kgずつ詰めた 4袋の計 8kgを用いて,イグサに対する染色液の重量比(浴比)を 1:20,イグサ重量に対する染料重量%(染料濃度)を 4%とした。
  試験区は,@ 1時間加温,A 2時間加温,B 2時間加温後 2時間放置 の 3区を設けた。なお,放置とは加温後火を止め,イグサを浸漬したままの状態で置くことである。染色イグサを取り出して水洗後,水切り乾燥し,染着程度を観察評価した。
 縦釜は,第1図 (b)に示すように,内径30cm,高さ 130cmの円筒型のステンレス製である。染色液は,別の釜で染料濃度 4%になるように染料を溶かし,あらかじめ沸騰させておいた。長さ 110cmのイグサを樹脂袋に 2kg詰めて,それを縦釜に 2袋入れ,中蓋をし,その上から外蓋をし,上部穴から浴比が 1:20になるように沸騰した染色液を注入した。試験区は,@ 1時間浸漬,A 2時間浸漬の 2区を設け,染色液を注入して設定時間が経過するとイグサを取り出して水洗後,水切り乾燥し,染着程度を観察評価した。なお,染色している間は加温はしなかった。


 

 試験2 縦釜における染色液温度の影響及び加温,保温,冷却の効果
 染色は,縦釜を用いて試験1と同じ方法で行い,沸騰した染色液を注入して, 2時間後に取り出す区を標準区とした。
(1) 染色液温度の影響
 縦釜に注入する染色液の温度を沸騰状態及び80℃とし,染色液注入 2時間後にイグサを取り出した。
(2) 加温の効果
 加温区は,沸騰した染色液を注入した 後,縦釜の底部をガスコンロで加熱した。30分加熱後火を止め,そのまま放置し染色液注入 2時間後にイグサを取り出した。
(3) 保温の効果
 保温区は,縦釜の外周を断熱材(厚さ 5cmのガラスウール)で被覆し,沸騰した染色液を注入し, 2時間後にイグサを取り出した。
(4) 冷却の効果
 30分後冷却区は,沸騰した染色液を注入して,30分後に染色釜側面にホースで水道水を約 8分間散水して染色液温度を低下させ,染色液注入 2時間後にイグサを取り出した。また, 1時間後冷却区は,染色液を注入して, 1時間後に冷却し,30分後冷却区と同様に処理した。

 試験3 縦釜におけるイグサの入れ方及び水切り時 のイグサの立て方
 染色は,縦釜を用いて試験1と同じ方法で行い,沸騰した染色液を注入して, 2時間後に取り出した。
(1) 染色釜へのイグサの入れ方
 @イグサの根元を下にして釜に入れる,Aイグサの根元を上にして釜に入れるの 2区を設けた。
(2) 水切り時のイグサの立て方
 @イグサの根元を下にして立てる,Aイグサの根元を上にして立てるの2区を設けた。

結   果


 試験1 染色釜の種類と染色法
 染色釜の種類及び染色時間と染着程度の関係を第1表に示した。横釜では,Red については 1時間加温区では,染まりにくく, 2時間加温区では色が淡く,色むらがあった。 2時間加温後 2時間放置区では,色むらが少なく比較的良好に染まった。Blueは 1時間加温区では色が淡く色むらがあり, 2時間加温区ではやや淡いが,むらなく染まった。Yellowは 1時間及び 2時間加温区で容易に染まった。
 このことから,横釜では,次のような方法で染色できる。浴比を 1:20,染料濃度を 4%として染色液を沸騰させた後,樹脂袋に入れたイグサを浸漬する。15〜20分ごとにイグサを反転させながら 2時間加温を続け,火を止めてそのまま 2時間放置する。その後,イグサを釜から取り出し,水洗後,水切り乾燥する。
 縦釜では,各染料とも, 1時間浸漬区では淡く色むらがみられたが, 2時間浸漬区は横釜の 2時間加温後 2時間放置区と同等の染着程度を示し,縦釜の方が横釜よりも短時間で染めることができた。横釜の場合,イグサの中央部に染料が浸透しにくかったが,縦釜では,横釜よりもすみやかに染料がイグサ全体に浸透した。


 試験2 縦釜における染色液温度の影響及び加温,保温,冷却の効果
(1) 染色液温度の影響
 第2表に示すように,Red とB-lue は染色液の当初温度が80℃では染まりにくく,沸騰状態で比較的良好に染まった。
(2) 加温の効果
 第3表に示すように,加温区は,標準区よりも染着程度が劣った。ただし,Yellowについては,標準区と同等に染まった。染色液温度は,当初86℃から時間の経過とともに低下し,標準区では 2時間後には63℃に低下した。また,加温区は,標準区よりも約 5℃高く経過した(第2図)。
(3) 保温の効果
 第4表に示すように,保温区は,標準区よりも染着程度が劣った。ただし,Yellowについては,標準区と同等に染まった。保温区の染色液温度は標準区より 8〜12℃高く経過し,染色開始 2時間後に は標準区の72℃に対して86℃と差が大きくなった(第 3図)。
(4) 冷却の効果
 第5表に示すように,30分後冷却区は標準区に比べて染着程度が向上した。また, 1時間後冷却区の染着程度は標準区と同等であった。標準区では,染色液の温度は当初91℃から, 2時間後には78℃ に低下した。一方,冷却区の染色液温度は,冷却後には標準区より約 6℃低く経過し, 2時間後には70℃になった(第4図)。
















 試験3 縦釜におけるイグサの入れ方及び水切り時のイグサの立て方
 染色釜へのイグサの入れ方及び水切り時のイグサの立て方と染着程度の関係を第6表に示した。
(1) 染色釜へのイグサの入れ方
 染色釜にイグサを入れる時は,イグサの根元を下にして入れる方が良好に染まった。根元を上にして染めると、根元部の染まりが悪かった。
(2) 水切り時のイグサの立て方
 染色後に水切りする時 は根元を下にして立てておく方が良好に染まった。根元を上にして水切りすると,根元の方の色が淡くなった。


考  察

 反応染料でイグサを染色する場合には,縦釜の方が従来の横釜よりも適していることが認められた。イグサを横にして染色液に浸漬すると,イグサの中央部付近へ染色液が浸透しにくく,染まりにくかった。一方,イグサを立てて染色液に浸漬すると,横にして染めるよりもすみやかに染料がイグサの内部に浸透した。このため,縦釜の方が横釜よりも染まりやすかったものと考えられる。
 反応染料はセルロース分子中の水酸基と反応する2)とされている。イグサが染まりにくいのは,イグサの表皮がワックスで被われているため,反応染料の表皮への染着が阻害されるためと考えられる。前報4)では、イグサの表皮が良く染まっている部位は髄の中まで染料が浸透しており,染まっていない部位は髄の中に染料が浸透していなかったと報告している。このため,反応染料の場合,イグサの髄に浸透した染料が,髄から表皮の方へ拡散して表皮が染まるものと考えられる。
 反応染料の染色液は,イグサの根元部分と先端部分の両方から髄の中に浸透し,中央部の髄は最後に浸透することが観察された。染色液温度が80℃では,染料はイグサ中央部の髄の中までは浸透していなかった。イグサ中央部の髄の中へ染料を浸透させるには,沸騰状態の染色液にイグサを浸漬する必要があった。
 供試した反応染料は中温反応型で,繊維における染色温度は40〜60℃が適温とされている3)。しかし,イグサの場合には,この温度では染料がイグサ中央部の髄の中に浸透しないために,染めることはできなかった。このように,染料をイグサ中央部の髄へ浸透させるのに必要な温度と染着の適温が異なることが,反応染料でイグサが染まりにくい原因と考えられる。このため,浸透と染着の両面から最も効率的な染色温度パターンを決める必要があると考えられる。
 冷却の効果が認められたのは,沸騰状態で染料がイグサ中央部の髄の中に浸透し,その後,冷却によって染色液温度が低下し,染着が高まったためと考えられる。一方,染色液を加温したり,保温しても染着程度の向上は認められなかった。これは,染色液温度が高いほど反応染料のセルロースに対する親和性が低下する傾向がある3)とされており,加温や保温によって染色液温度が高い状態が続いたために,染着の低下を招いたものと考えられた。
 以上の結果,反応染料を用いたイグサの染色法においては,沸騰状態の染色液にイグサを浸漬して染色液を髄の中に浸透させた後に、染色液温度を低下させるのがよいと考えられる。
 染色釜にイグサを入れる時は,イグサの根元を下にして入れ,染色後水切りする時も根元を下にして立てておく方が良好に染まった。これは,イグサの根元を下にした方が,イグサ中央部への染料の浸透が円滑に進むためと考えられる。また,水切り時にイグサの根元を上にして立てると,根元部分のまだ固着していない染料が下方向に移行するために,色が淡くなるものと考えられる。
 今後,最も効率的な染色温度パターンについて検討し,染色むらの解消やコスト低減のために染色時間の短縮を図る必要がある。

引 用 文 献

1)福岡県い業振興協会 (1978) イグサ染色の手引き:1-2.
2)大沼亥久三・阿久津清英・柴田録三郎・西出宗生 (1969) 染色.東京電気大学出版局:53-56.
3)三井東圧染料 三井反応染料Celmazol染料および Celmazol CF染料:16.
4)村上康則・許斐健治・松井 洋 (1994) 反応染料によるイグサの染色.第1報 染色条件と染色イグサの特性.福岡農総試研報A-13:35-38.