福岡農総試研報16(1997)

各種成分分析法に基づく牛用飼料の繊維成分  
第4報 各種繊維成分(OCW,ADF,CF)及び可溶無窒素物(NFE)含量からの
人工消化率(EDOM)含量推定式


棟加登きみ子・津留崎正信

(畜産研究所)


 乳牛では給与飼料のエネルギー指標としてTDN(可消化養分総量)が広く使われている。TDN含量は OCC(細胞内容物質)とOa(高消化性繊維)の合量より推定できるが,現時点ではOCC+Oaのデータは少ない。そこで,データが豊富で乳牛の飼料給与設計に用いられているCF(粗繊維), ADF(酸性デタージェント繊維), OCW(総繊維)の各繊維成分及び NFE(可溶無窒素物)含量からのOCC+Oa含量推定式について検討を行った。なお,本試験ではOCC+OaをEDOMとして表した。試験にはイタリアンライグラス,トウモロコシサイレージ,アルファルファ乾草,イナワラ及び市販配合飼料の計 5種類の飼料を用いた。イタリアンライグラスとイナワラは ADFを,トウモロコシサイレージはNFEを,アルファルファ乾草と市販配合飼料はOCWを変数とした一次回帰式により,EDOMを高い精度で推定することが可能であった。また, 5種類の飼料全体を対象とした場合は, ADFを変数とした次式よりEDOMを精度良く推定することが可能であった。
 EDOM =-1.43×ADF+ 97.25  r=0.889  SE=5.9%

[キーワード:粗繊維,酸性デタージェント繊維,総繊維,人工消化率,推定式]

     Fiber Fractions of Various Feeds of Cattle Based on Several Chemical Methods. (4) The Prediction Equations of EDOM Content from CF, ADF, OCW or NFE Contents of Feeds. MUNEKADO Kimiko and Masanobu TSURUSAKI (Fukuoka Agficultural Research Center, Chikushino, Fukuoka 818, Japan) Bull. Fukuoka Agric. Res. Cent. 16:121 -124 (1997)
     The single regression equations were made to predict enzymatic digestible organic matter (EDOM) from the various fractions fibrous of crude fiber (CF), acid detergent fiber (ADF), organic cell wall (OCW) and nitrogen free extract (NFE). Five kinds of feeds for cattle, Italian ryegrass, Corn silage, Alfalfa hay, Rice straw and Commercial feed were used to make the prediction equations of EDOM. EDOM content is amounts of organic cellular (OCC) content and cellulase soluble fraction of organic cell wall(Oa) content. EDOM content and total digestible nutrient (TDN) correlate to each other.
     The EDOM prediction were very accurate when a variable was ADF for Itarian ryegrass and Rice straw, NFE for Corn silage, OCW for Alfalfa hay and Cmmercial feed. When a variable was ADF, EDOM prediction was very accurate for all examined feeds: EDOM =-1.43 × ADF + 97.25  r=0.889  SE=5.94 .  

[key ward: acid detergent fiber, enzymatic digestible organic matter, fibrous]


緒  言

  乳牛の泌乳能力を充分に発揮させるにはその能力に応じたエネルギー摂取量を確保する必要があり,そのためには,飼料の持つエネルギー量や消化性を考慮した飼料の給与設計を行うことが重要である。日本では乳牛用飼料のエネルギー指標として TDN(可消化養分総量)が古くから使用され,飼料給与設計の重要な指標として用いられている8)。飼料中の TDN含量を把握するためには消化試験を行い個別の試料毎に測定しなければならず,多大の時間と労力を必要とすることから,既知の特定の飼料成分含量から TDN含量が予測できればより簡易に適正な飼料給与設計が可能となる。飼料成分の一般成分(粗蛋白質,粗脂肪,粗繊維及び粗灰分), ADF(酸性デタージェント繊維)及び NDF(中性デタージェント繊維)含量からの TDN含量推定精度は著しく低くい。一般成分等の飼料成分に対して,飼料成分の中でも酵素分析法による OCC(細胞内容物質)とOa(高消化性繊維)の消化率は 100%であり,OCCとOaの合量からTDN含量が精度良く推定できることが近年明らかにされた10)。しかし,現時点では各種牛用飼料のOCC+0a量に関するデータ蓄積が少ないという問題点がある。そこで,本報ではOCC+Oa量をEDOM(人工消化率)として表し,EDOMよりデータ蓄積が多いCF(粗繊維), ADF, OCW(総繊維)の各繊維成分およびCF成分と関連の深い NFE(可溶無窒素物)の各飼料成分含量からEDOM(人工消化率)含量を推定する方法と,それらの推定精度について検討を行ったので報告する。


材料及び方法

 1 供試飼料
 1983年から1990年にかけて当場内及び県内農家で使用された,1,2番草の伸長期から結実期のイタリアンライグラス乾草とサイレージ 258点,絹糸抽出期から完熟期までのトウモロコシサイレージ 162点,アルファルファ乾草26点,イナワラ39点及び市販配合飼料21点の総合計 506点を用いた。

 2 繊維成分,可溶無窒素物及び人工消化率の定量
 CFと NFEは常法6)に従って定量を行った。 ADFはGOERING らの方法4)を一部改良した方法5)に従い定量を行った。 OCWとEDOM(0CC+0a)は酵素分析法2)に基づいて定量を行った。すなわち,デンプンを多く含む飼料はα -アミラーゼ(和光純薬製)処理によりデンプンを除去した後,アクチナーゼ(科研化学製:アクチナーゼE)処理を行った。デンプンを含まない飼料はアクチナーゼによる加水分解のみを行い残渣をCW(細胞壁物質)として定量し,CWの有機物を OCW, α-アミラーゼとアクチナーゼ可溶の有機物を OCC(細胞内容物質)として定量した。また,CWをセルラーゼ(ヤクルト製:セルラーゼオノズカP-1500.飼料分析用)処理し,セルラーゼ可溶画分の有機物をOa(高消化性繊維)として定量した。


結  果

 1.供試材料の飼料成分含量
 第 1表に供試飼料の各種繊維成分, NFE及びEDOM含量の平均値,最大値,最小値及び含量の範囲を示した。繊維成分であるCF, ADF及び OCWの含量と含量の範囲はCF< ADF< OCWであり,この傾向は飼料の種類が異なっても同じであった。イネ科牧草であるイタリアンライグラスの各飼料成分含量とその含量の範囲は,各繊維成分が33.1〜64.0%と23.6〜49.4%, NFEが43.3%と32.6%,EDOMが44.7%と47.7%であった。イタリアンライグラスは他の飼料より各飼料成分含量の範囲が広く,成分含量変化の大きな飼料であった。同じイネ科飼料作物でも長大作物のトウモロコシサイレージは,イタリアンライグラスより各種繊維成分含量は24.7〜50.2%と少ないのに対し, NFE及びEDOM含量は57.5%及び55.1%と多かった。一方,ワラ類のイナワラはイタリアンライグラスと同程度の各繊維成分含量を示したが,その含量の範囲は10.2〜15.6%と狭く,EDOMの含量範囲も狭かった。マメ科牧草であるアルファルファ乾草の各繊維成分含量は25.0〜47.1%とイタリアンライグラスより少なく,その含量の範囲も 8.4〜12.0%と狭かった。 NFE及びEDOM含量は41.4%及び52.2%であった。 市販配合飼料は他の飼料に比べ各繊維成分含量は 6.2〜19.1%と著しく少なく各種繊維含量範囲も狭いのに対し, NFE及びEDOM含量は63.6%及び78.8%と多かった。


 2.EDOM含量推定式及び推定精度
 第 2表にCF, OCW, ADF及び NFEの各飼料成分含量からEDOM含量を推定する式を示した。まず,各繊維成分及び NFEがEDOMに対し,正,負どちらの要因として働いたかについて見ると,全ての飼料において繊維成分であるCF, OCW及び ADFはEDOMに対し負の要因として関与した。しかし, NFEは飼料の種類によって異なり,粗飼料のイタリアンライグラス,トウモロコシサイレージ,アルファルファ乾草及びイナワラでは正の要因として関与したのに対し,市販配合飼料では負の要因であった。
 次に,係数,すなわち直線の傾きについて見ると, 5種類の飼料を対象とした全体では,CFが -1.45, ADFが -1.43, OCWが -0.90, NFEが0.82であった。CFと ADFは非常に似かよった係数を示し, ADFを変数とした回帰直線はCFを変数とした回帰直線が Y軸方向に約+7平行移動した様相を呈した。 OCWを変数とした場合はCFと ADFを用いた場合に比べてその傾きは緩やかであり,この傾きが OCW< ADF≦CFという結果は飼料の種類が異なっても同じであった。しかし,飼料の種類が異なると各飼料成分を変数とした回帰直線の係数は異なった。CFはアルファルファ乾草の傾きが最も緩やかで -1.16であるのに対し,イタリアンライグラスの傾きが最も急で -1.78と,飼料の種類間に0.62の係数差が認められた。同様に, ADFは0.90, OCWは0.57の係数差が認められた。飼料の種類間における係数差は ADFが最も大きかった。一方, NFEは飼料の種類間における係数差は1.04と,各種繊維成分に比べ大きかった。
 最後に,回帰式のEDOM含量推定精度を示す相関係数( r)と含量の範囲に対する回帰推定からの標準誤差の割合(SE/RANGE)は次のとおりであった。 5種類の飼料全体における rとSE/RANGEは ADFが0.889と12.4%,OCWが0.873と13.7%,CFが0.812と19.6%, NFEが0.574と16.0%であった。 rが最も高くSE/RANGEが最も小さい ADFを変数とした場合がEDOM含量の推定精度が最も良く,OCWを用いた場合の精度は ADFよりやや低かった。CFはADF,OCWに比べると,EDOM含量推定精度は低く, NFEは各繊維成分に比べて著しく推定精度が低くかった。 ADFまたは OCWを変数としてEDOMを推定した場合が精度が高いという傾向は各飼料に共通しており,イタリアンライグラスとイナワラは ADFを変数とした場合の精度が高かった。トウモロコシサイレージはいずれの飼料成分を変数に用いても rは0.885〜0.916と高い相関を示し,ADFが0.916と最も高い相関を示した。しかし,ADFのSE/RANGEは12.7%で,次に相関の高い NFE(r=0.910)のSE/RANGは9.5%とADFより小さかった。アルファルファ乾草はいずれの飼料成分含量を用いても相関は0.569〜0.632と低く,SE/RANGEも29.8〜43.1%と大きく,各成分の中で比較的精度の高かったのは OCW含量(r=0.632,SE/RANGE=29.8%)であった。イナワラはADF(r=0.720,SE/RANGE=28.2%),市販配合飼料はOCW含量(r=0.843,SE/RANGE=10.5%)を用いた精度が高かった。


考  察

 CF,ADF及びOCW含量からEDOM含量を推定する場合,各繊維成分を構成している化合物の性質や消化性が問題となる。一般飼料成分の中で繊維として定量されるCFはセルロースにより構成されている。CFはその分析法上,本来,繊維成分であるヘミセルロースやリグニンが溶脱し,溶脱したヘミセルロースやリグニンは糖質部分として位置づけられている NFEとして定量される1)。このため,CFは繊維全体を表すものではなく繊維の一部を示す指標である。デタージェント法による ADFはセルロースに酸不溶のリグニンが加わったものである4)。CFと ADFの消化率は飼料の種類によって異なるが, ADFの消化率はセルロースがリグニンによって被覆されているため,一般にCFより低い。酵素分析法による OCWは繊維の総量を表し,ヘミセルロース,セルロース及びリグニンからなる3)。 OCWはセルラーゼ可溶画分のOaとセルラーゼ不溶画分のObとに分けられ,Oaの消化率は 100%である。しかし,Obはリグニンによる被覆割合やシリカによる結晶化の程度により,その消化率は約40〜60%と大きく変動し,Oaより消化率が低い2,5)。このため, OCWの消化率はOaとObの割合やObの消化率により大きく変動する。
 各繊維成分及び NFEの構成成分からEDOM含量の推定精度を推察すると,CFと NFEはリグニンの全量が誤差要因となるのに対し, ADFは酸可溶のリグニンが誤差要因である。 OCWはリグニン全体を含むことから,EDOM含量の推定精度は OCWが最も良く,次いでADF,最後にCFとNFEの順に低くなると考えられる。
 本試験の結果,繊維成分や NFE含量からのEDOM含量推定式の精度は,ADFまたはOCWを変数として用いた場合が高く,CFではやや精度が低く, NFEはトウモロコシサイレージを除き著しく精度が低い結果を得た。各繊維成分における各一次回帰式の係数は,CFと ADFは各々-1.45,-1.43と非常に近似した値であったのに対し,OCWは-0.90とCF及び ADFに比べ緩やかな傾きを示した。この差は,各繊維成分を構成する主要成分が異なることに起因すると考えられる。CF, ADFでは共にセルロースが主要構成成分であることから,CFと ADFを用いた回帰式の係数が近似したものになり,酸不溶性リグニンが加わった分, ADFの切片がCFより高くなったと考えられる。 OCWはヘミセルロースやリグニンを含むので, OCW含量はCFや ADF含量より多くなる。また, OCW含量の幅はCFや ADFより広いことから, OCWを変数とした回帰直線の X軸のレンジはCF, ADFより広くなるため,その傾きは緩やかになる。
 次に,飼料の種類とEDOMの関係について検討を行う。まず, ADFについてみると,飼料の種類が異なるとEDOM含量推定式の係数も異なり,飼料間に0.90の係数差が認められた。同様に, OCW,CF及び NFEにおいても飼料間に各々0.57,0.62及び1.04の係数の差が認められ,これらの成分も飼料の種類により消化性が異なることが示された。既報9)において飼料の種類により繊維成分の構成は異なり,製造粕類,穀類ではヘミセルロース:セルロース含量比は約 1.5: 1,粗飼料では約 0.7: 1であることを明らかにした。このように,飼料の種類により繊維の構成成分割合が異なることが繊維成分の消化性の差,すなわちEDOM含量推定式の係数差として現れたと考えられる。 ADFまたは OCW含量からEDOM含量を推定した場合が,その推定精度が高いという傾向は各飼料に共通しているが,飼料の種類によりEDOM推定精度の最も高い飼料成分は異なる。イタリアンライグラスとイナワラは ADFを変数とした場合が,それぞれ, r=0.884 ,SE/RANGE=14.9%,r=0.720 ,SE/RANGE=28.3 %と最も精度が高い。トウモロコシサイレージは ADFを用いたときに相関が最も高い( r=0.916)。しかし,次に相関の高い NFE( r=0.910)のSE/RANGEは 9.5%で, ADFの12.7%より小さい。 ADFと NFEは共に相関が 0.91以上と高いが,SE/RANGE は NFEが ADFより 3.2%低いことから,トウモロコシサイレージのEDOM推定には NFE成分を用いる方が適すると考えられる。先に, NFEはその分析法上,繊維成分の一部を含むことから, NFE含量からのEDOM含量の推定は精度が低いと論じた。トウモロコシサイレージはCFを変数として用いたときもr=0.855 と他飼料の r=0.763〜0.606 より,高い相関を示した。トウモロコシサイレージはホールクロップサイレージであることから,乾物重量の半分は糖質主体の濃厚飼料的性質を持った子実であり,残り半分は繊維主体の粗飼料的性質を持った茎葉部である。この,濃厚飼料的性質と粗飼料的性質を半々に持つことにより, NFEとCFの持つ欠陥を相殺したため,トウモロコシサイレージでは NFEとCFにおいてもEDOMの推定精度が高くなったと考えられる。アルファルファ乾草のEDOM推定精度の最も高い飼料成分は OCWで,この時の相関係数は r=0.632であった。 OCW含量からのEDOM推定精度は,イタリアンライグラス,トウモロコシサイレージ及びイナワラのイネ科粗飼料のr=0.689〜0.902に比べ,アルファルファ乾草は0.057〜0.270低かった。また,アルファルファ乾草はOCW 以外のCF,ADF 及び NFEを用いてもEDOMの推定精度は r=0.569〜0.619 と低く,マメ科のアルファルファ乾草はイネ科粗飼料とは異なる繊維成分の構成をしていると考えられる。市販配合飼料は OCW含量を用いることによりEDOMを精度よく推定でき(r=0.834,SE/RANGE=10.5%),飼料特性の異なる 5種類の飼料全体では ADF含量からEDOMを精度よく推定できた(r=0.839,SE/RANGE=12.4%)。ただし,飼料全体を対象とした回帰式は解析に用いた飼料の種類によりサンプル数が大きく異なるため,アルファルファ乾燥や市販配合飼料の検体数が増えると,その数に応じて回帰式も変化すると考えられる。
 本報では牛用飼料の各繊維成分及び NFE含量からEDOMを推定する一次回帰式を提示した。高泌乳牛において,これらの推定式を用いて各飼料のエネルギー量や消化性を考慮した飼料給与設計を行なうことにより,より良い飼料給与が可能と考える。 


引 用 文 献

1) 阿部 亮(1975):牛用飼料の栄養価評価法.畜試年報,14,143〜155  
2) A.ABE,S.HORII and K.KAMEOKA.(1979):Application of Enzymatic Analysis with Glucoamylase,Pronase and Cellulase to Various Feed for Cattle,J.Anim.  Sci.48.1483 〜1490.
3) AKIRA ABE and TADASHI NAKUI(1979):Application of Enzymatic Analysis to the Prediction of Digestible Organic Matter and to the Changes in Nutrive Value of     Forages. J.Japan.Grassl.Sci., 25,231〜240
4) GOERING,H.K.and P.J.VAN SOEST(1970):Forage Fiber Analysis. Agric. handbook no.379,USDA, Washington D.C., p.1〜12.
5) 堀井 聡,阿部 亮(1972):粗飼料の細胞膜構成物質に関する研究 V.Acid Detergentの粗飼料に及ぼす影響について.畜試研報25,63〜68.
6) 森本 宏 編(1971):動物栄養試験法.養賢堂,東京,p.42〜43
7) 棟加登きみ子・津留崎正信(1993):各種成分分析法に基づく牛用飼料の繊維成分U.粗飼料,製造粕類及び市販配合飼料の OCW,Oa,Ob成分の比較. 福岡農総試  研報 C-12,29〜32.
8) 農林水産省農林水産技術会議事務局編(1994):日本飼養標準・乳牛.中央畜産会,東京.
9) 津留崎正信・棟加登きみ子(1991):各種成分分析法に基づく牛用飼料の繊維成分T.粗飼料及び製造粕類,穀類のOCW,ADF,CF成分の比較.福岡農総試研C-11  ,43〜48.
10) 自給飼料品質評価研究会編(1994):粗飼料の品質評価ガイドブック.日本草地協会,東京,p.56〜64.