福岡農総試研報16(1997)
ブロイラーの腹腔内脂肪蓄積を抑制する目的で植物性高蛋白質飼料原料のアルファルファミール(ALF),コーングルテンミール(CG),動物性高蛋白質飼料原料のフェザーミール(FM),血粉(BM)を用いて調整した高蛋白質飼料の代謝エネルギー(ME)水準及び蛋白質(CP)含量がブロイラーの腹腔内脂肪蓄積に及ぼす影響を検討した。給与する高蛋白質飼料のME,CPは
0〜21日齢はME2,846〜3,180kcal/kg,CP21.7〜31.4%,22〜56日齢はME3,097〜3,270kcal/kg,CP18.5〜25.9%の範囲とした。@ブロイラーの腹腔内脂肪率は蛋白質の種類に関わらず,ME摂取量に対するCP摂取量比(摂取ME(Mcal)/CP(kg)比)の減少に伴って有意(p<0.01)に低くなった。A56日齢時腹腔内脂肪率
yは後期(22日齢以降)給与飼料のME水準( kcal/kg)に対するCP含量(%)の比(給与ME/CP比)を変数
xとする有意(p<0.01)な1次回帰式,y=0.011x+1.26 (r=0.742,120≦x≦176)で表すことができた。以上の結果から56日齢時腹腔内脂肪率
2.7%程度を目標として給与飼料のME水準を増体に必要な 3,150kcal/kgとした場合,給与飼料のME/CP比は
131に設定でき,CPは24%程度になる。
[キーワード:ブロイラー,腹腔内脂肪率,代謝エネルギー,蛋白質含量]
Effect of Metabolizable Energy(ME) and Crude Protein(CP) of Dietary
Feed on Accumulation of Broiler's Abdominal Fat.MURAKAMI Tetsuya and Masanobu
TSURUSAKI(Fukuoka Agric. Cent.,Chikushino,Fukuoka 818,Japan) Bull.Fukuoka
Agric.Res.Cent.:113-116 (1996)
The experiment was conducted to study the effects of metabolizable
energy(ME) levels and crude protein(CP) of dietary high-protein feed( added
alfalfa meal,corn gluten meal as plant protein or feather meal,blood meal
as animal protein) on accumulation of broiler's abdominal fat.ME and CP
of dietary feed from 0 to 21 days old were 2,846 -3,180kcal/kg and 21.7
- 31.4%,from 22 to 56 days were 3,097 - 3,270kcal/kg and 18.5 - 25.9%.
@Broiler's abdominal fat ratio was restrained by decreasing intakeME to
intakeCP ratio.A The following single regression equation was made for
predicting abdominal fat ratio of broiler at 56 days old (y;%) from metabolizable
energy to crude protein ratio of dietary feed from 22 to 56days(x:(kcal/kg)/
%):y=0.11x+1.26 (r=0.742). From these results, to feed Broiler of abdominal
fat ratio 2.7% ,it was concluded ME and CP of dietary feed were 3,150kcal/kg
and 24%.
[Key words : broiler,abdominal fat ratio,metabolizable energy,crude protein]
緒 言
ブロイラーは専用品種の育種選抜や管理技術の発達によって大型化が進み,それに伴い体脂肪蓄積が進行している。体脂肪は食肉として利用できず過剰に蓄積すると飼料効率の低下による経済的損失,処理場における処理労力の増大等の問題が生じる。ブロイラーの体脂肪蓄積に影響を及ぼす要因としては遺伝的要因3,12),環境的要因13),代謝生理的要因2),栄養的要因などが考えられる。
栄養的要因では,給与飼料中の代謝エネルギー(ME)や蛋白質含量(CP)と体脂肪蓄積との関係が検討されている。給与飼料中のCPを高めるとブロイラーの体脂肪蓄積は減少するとされている4,5,11) 。また給与飼料のCPを一定にして,ME水準を低くするかあるいはME水準を一定にしてCPを高くすることにより,体脂肪蓄積は減少するとされている6)。しかし体脂肪蓄積の抑制はCPの量だけではなく,その種類にも影響を受け,大豆粕に比べて,魚粉,アルファルファミールはブロイラーの腹腔内脂肪の蓄積抑制に有効であるとする報告1)もある。
そこで本報告は,蛋白質の種類の違い及び給与飼料のME/CP比の違いがブロイラーの腹腔内脂肪蓄積に及ぼす影響を明らかにする目的で,給与飼料のME,CP含量が幅広い水準となるように調整した高蛋白質飼料を用いて飼料給与試験を行った。試験飼料のME,CPの調整には植物性高蛋白質飼料原料であるアルファルファミール(ALF),コーングルテンミール(CG),動物性高蛋白質飼料原料であるフェザーミール(FM),血粉(BM)を利用した。
本報告は1991〜1993年度に福岡県,佐賀県,熊本県,鹿児島県の4県で農林水産省の地域重要新技術開発事業として取り組み,高蛋白質飼料原料の給与量,給与期間がブロイラーの腹腔内脂肪蓄積に及ぼす影響を検討したなかから,試験結果の一部を福岡県で解析をしたものである。
材料及び方法
試験実施における使用鶏種,餌付け日,飼料,生体重測定,腹腔内脂肪量測定の方法等は4場所間で同一の条件とした。試験は各場所において,各年度毎に暑熱の厳しい6月上旬から8月上旬の夏期,比較的発育の安定する1月中旬から3月中旬の冬期にそれぞれ1回の3年間,計6回行った。
基礎飼料の配合設計については,第 1表のとおりとした。飼育前期の 0〜21日齢にはME3,100kcal/Kg,CP22%,22日齢以降の飼育後期にはME3,200kcal/Kg,CP18.5%を用いた。試験飼料は基礎飼料に植物性高蛋白質飼料原料としてALF(現物当たりME1,410kcal/Kg,CP54.9%),CG(ME3,911kcal/Kg,CP64.4%),動物性高蛋白質飼料原料としてFM(ME2,550kcal/Kg,CP80.8%),BM(ME2,470kcal/Kg,CP58.9%)を添加して調製した。
試験飼料はME水準が幅広く段階的になるように,ALF,FM,CGは 5,10,15%添加,FMとME水準の近いBMは
2.5,5.0,7.5%添加とした。後期基礎飼料及び後期基礎飼料にCG,FMを添加した飼料のME,CP値は全糞採取法7)による代謝試験から得られた実測値を使用し,前期基礎飼料のME,CP値は配合設計の設計値を引用した。ALF,BMのME,CP値は日本標準飼料成分表9)の値を引用し,ALF,BM添加飼料のME,CP値は計算によって算出した。
給与飼料組成は飼育前期の 0〜21日齢,飼育後期の22日齢以降と発育段階に応じてかえた。これらの発育段階別の給与期間に給与飼料(ALF,CG,FM,BM添加飼料,基礎飼料)を組み合わせた29試験区の成績を抽出し,解析した。解析に用いた試験区の給与飼料組成はは前期飼料のMEの範囲
2,846〜3,180kcal/Kg,CPの範囲21.7〜31.4%,後期飼料はME 3,097〜3,270kcal/Kg,CP18.5〜25.9%であった。
29試験区には季節,鶏舎構造,飼育密度の要因が入っている。陰圧式ウィンドレス平飼い鶏舎では,飼育密度は夏期試験で52羽/
3.3u,冬期試験で53.5羽/ 3.3uで雌雄混飼とした。開放式平飼い鶏舎では,飼育密度は42.5羽/
3.3uで雌雄混飼とした。
調査項目は,56日齢時の雌雄平均生体重,飼料消費量,腹腔内脂肪量,腹腔内脂肪率とした。飼料消費量は,各区の総飼料消費量を羽数で除して算出した。腹腔内脂肪量は56日齢時に各区の平均生体重を求め,平均に近い生体重を持つ個体の中から,無作為に各区雌雄
5羽ずつ用いた。腹腔内脂肪量は,腹腔に蓄積した脂肪を筋胃に付着した部分までとり秤量したもの,腹腔内脂肪率(%)は腹腔内脂肪量を生体重で除したものとした。
結 果
解析に用いた季節別のME摂取量,CP摂取量,増体量及び腹腔内脂肪率について第
2表に示した。暑熱の厳しい夏期では冬期に比べて飼料摂取量が低下するため,ME摂取量,CP摂取量,増体量は冬期に比べて夏期が低くなる傾向を示した。夏期のME,CP摂取量,増体量は13.0〜17.1Mcal,0.85〜1.40kg,2.1〜2.7kg,冬期では16.6〜21.2Mcal,1.12〜1.69kg,2.3〜3.2kgの範囲にあった。腹腔内脂肪率は夏期,冬期で大きな差はみられず夏期2.41〜3.57%,冬期2.44〜3.58%となった。各給与飼料別にみると,高蛋白質飼料給与した場合,夏期冬期とも腹腔内脂肪率は2.41〜3.46%となり,基礎飼料を給与した場合の2.90〜3.58%に比べて低くなる傾向を示した。
第 3表にME摂取量,CP摂取量,増体量及び摂取ME/CP比と腹腔内脂肪量,腹腔内脂肪率の間の単相関係数を示した。腹腔内脂肪量はME摂取量,増体量,摂取ME/CP比との間に有意(p<
0.01)な正の相関が認められ,単相関係数はそれぞれ 0.821,0.799,0.427となった。
ME摂取量と腹腔内脂肪量の関係について第 1図に示した。腹腔内脂肪量 y(
g)はME摂取量(Mcal)を変数 xとする有意(p<0.01)な1次回帰式@で表すことが y=5.48x-16.9,r=0.821・・・@
できた。この式はME摂取量が 1Mcal増加すると腹腔内脂肪量は約5.5g増加することを示している。
腹腔内脂肪率はME摂取量,摂取ME/CP比との間に有意(p<0.01)な正の相関が認められ,単相関係数はそれぞれ
0.394, 0.683となった。腹腔内脂肪率は,増体量との間にも有意(p<0.05)な正の相関が認められ,単相関係数は
0.323となった。増体量 y(g) は腹腔内脂肪率 x(%)を変数とする有意(p<0.05)な1次回帰式Aで表すことができた。
y=349x+1652,r=0.323 ・・・A
第 2図に摂取ME/CP比と腹腔内脂肪率の関係について示した。腹腔内脂肪率
yは摂取ME/CP比を変数 xとする有意(p<0.01)な1次回帰式Bで表すことができた。 y=0.12x+1.18,r=0.683・・・B
摂取ME/CP比と腹腔内脂肪率に高い相関が認められたのことから,給与飼料のME(kcal/kg)/CP(%)比と腹腔内脂肪率の関係について検討した。
第 3図に22日齢以降に給与する飼育後期用飼料のME(kcal/kg)/CP(%)比と腹腔内脂肪率の関係について示した。腹腔内脂肪率は,22日齢以降の給与飼料のME/CP比を変数とする有意(p<0.01)な1次回帰式C(ME:3,097〜3,270kcal/kg,CP:
18.5〜25.9%)で表すことができた。
y=0.011x+1.26,r=0.742・・・C
考 察
本試験において,ME摂取量,CP摂取量と腹腔内脂肪率との関係について検討したところ,摂取ME/CP比と腹腔内脂肪率との間には有意(
0.01)な相関が認められ,腹腔内脂肪率は摂取ME/CP比によって表すことができた。また腹腔内脂肪率は,前期給与飼料の影響は大きくなく,後期(22〜56日齢)給与飼料のME/CP比によって推測することができた。
ME摂取量と腹腔内脂肪量の相関は高く,ME摂取量を腹腔内脂肪量の指標とすることができる。しかし腹腔内脂肪量は増体量の要因が入っておらず,腹腔内脂肪量/増体量×
100(%)で算出され,増体量の違うものでも比較が可能である腹腔内脂肪率が脂肪蓄積の指標として適当と考えられた。
一般的な市販飼料である基礎飼料を給与した場合に比べて高蛋白質飼料を給与した場合,腹腔内脂肪率は抑制される傾向にあり,高蛋白質飼料給与による腹腔内脂肪率の抑制は可能と考えられた。腹腔内脂肪率は摂取ME/CP比との間に高い正の相関があることから,摂取した全体の代謝エネルギーのなかで,蛋白質から得る代謝エネルギーの割合が高くなると腹腔内脂肪率は抑制されると考えられた。したがって,脂肪抑制効果は高蛋白質飼料原料の種類とは関係なく,摂取MEに対するCPの量に影響を受けると考えられた。
摂取ME/CP比は飼料摂取量から算出するため,飼育前に腹腔内脂肪率を推定することはできない。そこで飼育前に腹腔内脂肪率を推定するために,給与する飼料のME(kcal/kg)/CP(%)比(給与ME/CP比)によって腹腔内脂肪率を推定した。
0〜56日齢の摂取ME/CP比は, 0〜21日齢に給与される飼料の給与ME/CP比,22日齢以降に給与される飼料の給与ME/CP比及びそれぞれの期間の飼料摂取量に影響を受ける。ブロイラー雌雄の平均的な飼料摂取量(雌雄平均)は
0〜21日齢の815gに対して,22〜56日齢では,6,130g8)である。 0〜21日齢間の飼料摂取量が,全体の飼料摂取量にしめる割合は12%程度で全体の摂取ME/CP比に及ぼす影響は小さい。逆に22日齢以降の飼料摂取量は全体の88%を占めるため,全体の摂取ME/CP比は22日齢以降に給与される飼料の給与ME/CP比の影響が大きいと考えられる。
このことから56日齢時の腹腔内脂肪率( y)の推測は,22日齢以降給与飼料のME/CP比を変数(
x)とする1次回帰式で算出することが適当であると考えられた。かりに腹腔内脂肪率
2.7%程度のブロイラーを生産するためには,Cの回帰式から給与ME/CP比(
x)は 131に設定できる。増体を落とさないための22日齢以降のMEは,NRC飼養標準10) では3,200kcal/kg,日本飼養標準8)では3,100kcal/kgとなっている。その平均値である
3,150kcal/kgを当てはめた場合,CPは24%程度となった。このことから56日齢時腹腔内脂肪率
2.7%程度のブロイラーを生産するための飼料給与方式は後期(22日齢以降)給与飼料をME
3,150kcal/Kg,CP24%とする。前期については本試験で基礎飼料として使用した一般的な配合飼料のME=3,100
kcal/Kg,CP=22%を用いる。腹腔内脂肪率と増体量の関係から得られたAの回帰式に腹腔内脂肪率
2.7%を当てはめると,56日齢時増体量は 2.6kg程度となる。これは日本飼養標準での標準的な56日齢時ブロイラー生体重2.68kg(雌雄平均)に比べて,同程度の生体重であり,増体量も確保できると考えられた。
引 用 文 献
1)AKIBA,Y.,H.MIURA and M.HORIGUCHI(1987) Lipid Accumulation and Lipid
Metabolism in Liver and Adipose Tissue and Plasma Corticosterone Concentration
of Broiler Chicks fed Different Protein Sources or NKK-100. Jpn.Poult.Sci.,24:22
0-229.
2)BARTOV.I.,L.S.JENSEN, and J.R.VELTMANN,Jr.(1979) Effect of Corticosterone
and Prolactin on Fattening in Broiler Chicks.Poultry Sci., 59:132 8-133
4. 3)CHERRY,J.A.,P.B.SIEGEL and W.L.BEANE(1975) Genetic Nutritional Relationships
in Growth and Carcass Characteristics of Broiler Chickens.PoultrySci.,57:1482-1487.
4)DIAMBRA,O.H.and M.G.MCCARTNEY(1985) Performance of Male Broilers Changed
from Starter to Finisher Diets at Different Ages. Poultry Sci., 64:1829-1833.
5)GRIFFITHS,L.,S.LEESON and J.D.SUMMERS(1977) Fat Deposition in Broilers.
Poultry Sci.,56:638-646.
6)JACKSON,S., J.D.SUMMER and S.LEESON(1982) Effect of Dietary and Energy
on Broiler Carcass Composition and Efficiency of Nutrient Utilizati on.Poultry
Sci., 61:2224-2231.
7)森本宏:(1971) 動物栄養試験法, PP286-298, 養賢堂, 東京.
8)農林水産省農林水産技術会事務局編:(1992) 日本飼養 標準家禽,PP19,中央畜産会,東京
9)農林水産省農林水産技術会事務局編:(1987) 日本標準 飼料成分表,PP162,181,中央畜産会,
東京.
10)National Academy Press:(1994) Nutrient Requirements Of Poultry,National
Reserach Council,Washington,D.C.
11)SALMON,R.E.,H.L.CLASSEN and R.K.MCMILLAN(1983) Effect of Starter and
Finisher Protein on Performance,Carcass Grade,and Meat Yield of Broilers.
Poultry Sci., 62:837-845.
12)TWINING,P.V.Jr.,O.P.THOMAS and E.H.BOSSARD(1978) Effect of Diet and
Type of Birds on the Carcass Composition of Broilers at 28,49, and 59 Days
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13)山根哲夫・中里孝之・本田博信他(1979) ブロイラー の飼育日齢及び季節と腹腔内脂肪蓄積量の関係.家禽会誌,16:155-159.