福岡農総試研報16(1997)

鶏舎内及び露天放飼場での平飼い肉用鶏飼育における人工砂床材利用


村上徹哉・小島雄次・徳満茂・津留崎正信

(畜産研究所)


 平飼い肉用鶏床材としての人工砂の利用範囲と適切な利用方法を把握するため,鶏舎内飼育において人工砂の粒径の違いが,塵埃濃度,床材水分,アンモニアガス( NH3)濃度に及ぼす影響を明らかにするとともに,露天放飼場において,人工砂床材の適性を評価した。鶏舎内飼育では,人工砂床材の粒径 5〜 8mm(大粒区), 5mm以下(中粒区), 1mm以下(細粒区)の 3区を設けた。露天放飼場では床材として人工砂と土壌を比較する飼育試験を行った。@鶏舎内飼育では,床材使用開始後42日目(鶏齢63日齢時)までは床材水分及び NH3濃度は低く,塵埃濃度が高くなる傾向を示した。逆に42日目をすぎると床材水分及び NH3濃度は高く,塵埃濃度は低くなる傾向を示した。A28日目(49日齢)までの塵埃濃度は,大粒区の 206〜737cpmに比べて中粒区は 1,151〜1,139cpm,細粒区は 1,379〜1,170cpmと高くなった。49日齢時の生体重は,大粒区1,428gに比べて中粒区1,393g,細粒区1,289gが軽く,塵埃の発生が原因と考えられた。B露天放飼場において人工砂床材を使用すると,床材表面のふん層の形成や泥濘化はみられず,表面は清潔に保たれた。床材中層にふん層が形成されたが,放飼終了 8週間後には消失し,放飼前の状態に回復した。以上の結果から,人工砂床材は鶏舎内飼育においては塵埃の原因となる細粒部分を除去することによって適切に利用できると考えられた。露天放飼場では,放飼場表面にふん層の形成されにくい床材であることが明らかになった。

[キーワード:人工砂,床材,飼育環境]

     Utilization of Artificial Sand for Floor FeedingMeat Type Chickens in Chicken House and Free Range Floor.MURAKAMI Tetsuya,Yuji KOJIMA,Shigeru TOKUMITSU,and Masanobu TSURUSAKI (Fukuoka Agric. Res.Cent.,Chikushino, Fukuoka 818,Japan)Bull. Fukuoka Agric.Res.Cent.15: 109-112 (1996)
     This study was conducted to investigate the effects of artificial sand as floor matter on feeding environment (water content of floor matter,concentration of dust,ammonia gas)of floor feeding meat type chickens.The feeding experiment was compared among 3 levels of artificial sand grain sizes 5-8mm(A),under 5mm(B) and under 1mm(C). And to investigate the effects of artificial sand on floor condition of free range field,the feeding experiment was compared between soil and artificial sand (3-8mm). 1)From 0 to 49 days, concentration of dust of B(1,151-1,139cpm) and C (1,379-1,170cpm) were higher than that of A(206-737cpm).Body weight of A(1,428g) at 49days was higher than that of B(1,393g) and C(1,289g).2)The surface of free range floor using artificial sand was cleaner than that of soil.It was concluded that artificial sand was able to use as floor matter in chicken house and free range field.

[keywords:artificial sand,feeding environment,floor matter]


緒  言

 既報では4),‘はかた地どり’の放飼場床材として人工砂を使用すると,まさ土,川砂を使用した場合に比べて,増体量,飼料要求率が優れ,放飼終了後も放飼場表面に鶏ふんが堆積することなく清潔に保たれることを明らかにした。
 人工砂は孔隙率63.5%,吸水率84.5%,嵩比重 0.7の物質で,水分の吸収,発散性に優れた特徴を持っており,屋根付き放飼場では床材表面に鶏ふんがたまらず清潔であったため4),露天放飼場床材及び鶏舎内床材としての使用等利用範囲が拡がることが期待できる。
 しかし鶏舎内飼育における人工砂床材の利用が飼育環境に及ぼす影響及び降雨などに晒される露天放飼場における利用効果については明らかにされていない。また人工砂は,軽量気泡コンクリート廃材を粉砕して製造されるため,得られる人工砂の粒径には幅があり,利用できる粒径を求めることによって製造及び利用面での効率化が高まると考えられる。
 そこで通気の良くない鶏舎内飼育においては,粒径の違う人工砂を用いて,鶏の発育及び飼育環境として塵埃濃度,床材水分, NH3濃度を調査し,粒径を含めた人工砂の床材としての適性を検討した。また露天放飼場においては,放飼場表面のふんの堆積が問題となるため,県内‘はかた地どり’飼育農家の露天放飼場において,従来の土壌(表層腐植質黒ボク土)と人工砂床材を比較しつつ検討を行ったので報告する。


材料及び方法

 舎内飼育試験,露天放飼試験の供試飼料は, 0〜21日齢はME3,080kcal/kg,CP22%,22日齢以降はME3,000kcal/kg,CP18%の市販配合飼料とした。試験中は不断給餌,不断給水とし,抗生物質やビタミン剤は投与しなかった。

 1 舎内飼育試験 
(1) 飼養方法
 試験区は人工砂床材の粒径別に 5〜 8mmの大粒区,粒径 5mm以下の中粒区,粒径 1mm以下の細粒区の 3区とし,敷厚は60mmとした。供試鶏舎には鉄骨スレートぶきの平飼い鶏舎を用いた。
 供試鶏には‘はかた地どり’初生びなを雌雄各 225羽の計 450羽を用い,雌雄混飼とした。試験期間は餌付け時の1992年10月 8日から91日齢時の1993年1月5日までの91日間とした。
  0〜21日齢までは 1区画2.15u,飼育密度 230羽/3.3u, 1区画当たり雄75羽,雌75羽の計 150羽として反復なしで 3区画,計 450羽を用いた。この期間はガスブルーダーによる給温を行った。21日齢時に床材は新しいものと敷き代えた。22〜91日齢までは 1区画 6.9u,飼育密度24羽/3.3u, 1区当たり雄25羽,雌25羽の計50羽として 3区 3反復の計 9区画を用いた。
(2) 調査項目
 塵埃濃度, NH3濃度,床材水分,育成率,生体重,飼料要求率とした。床材水分の測定は試料を 105℃で24時間加熱し加熱後の減量分を水分量として,水分量を乾物量で除して算出した。塵埃濃度は光散乱式相対濃度計(柴田科学機械工業製)を,各試験区中心の高さ50cmの位置に固定し,鶏が静まるのを見計らって 1分間測定した。塵埃濃度1cpmはステアリン酸粒子換算で0.01mg/m3minを表す。 NH3濃度は,北川式ガス検知器を用い,塵埃濃度測定と同じ地点で測定した。飼料要求率は飼料消費量を増体量で除して算出した。

 2 露天放飼試験
(1) 飼養方法
 露天放飼試験では粒径 3〜 8mmの人工砂を用いた。舎内飼育試験では 5mm以下の粒径で塵埃が発生したため,現地試験では,周辺民家等へ影響を及ぼすことを配慮し 3mm以下の粒径を除去した。放飼場床材として,対照区は表層腐食質黒ボク土区(土壌区),試験区は人工砂を敷厚が50mmになるよう放飼場表面に客土した。放飼場面積は78uとした。供試鶏舎は,それぞれの区に隣接したトタン屋根のカマボコ型鶏舎1棟づつの計2棟を用いた。1棟の舎内床面積は99uで,放飼期間中の鶏舎を含めた飼育密度は17羽/3.3uとした。
 供試鶏には‘はかた地どり’の初生びな 1,880羽を用い, 940羽づつ 2棟の鶏舎に振り分けた。 0〜60日齢は鶏舎内飼育とし,放飼期間は61〜90日齢とした。放飼期間中は,鶏が鶏舎と放飼場を自由に行き来できるようにした。試験期間は1993年11月11日〜1994年 2月 8日(放飼期間1994年 1月10日〜 2月 8日)とした。
(2) 調査項目
 育成率,生体重,飼料要求率,放飼場土壌硬度,放飼場の断面構造の変化を調査した。土壌硬度はSR−2型土壌抵抗測定器6)を用い,地下50mmまでの貫入抵抗を測定した。


結  果

 1 舎内飼育試験
 飼育前期の21日齢時塵埃濃度, NH3濃度,床材水分について第 1表に示した。塵埃濃度は大粒区252cpmに比べて,中粒区767cpm,細粒区757cpmが有意(p<0.01)に高くなった。 NH3濃度は大粒区及び中粒区では0ppm,細粒区は2ppmであった。床材水分は大粒区12.3%,中粒区9.5%,細粒区15.4%となった。
 飼育後期(22日齢以降)における塵埃濃度の推移について第 1図に示した。
 床材使用開始後28日目(鶏齢49日齢)までは塵埃の発生が見られ,特に中粒区,細粒区では塵埃濃度が高くなったが,42日目(63日齢)以降は各区とも急激に低下した。粒径別にみると,床材使用開始28日目(49日齢)までの塵埃濃度は大粒区に比べて中粒区,細粒区が大きくなり,14日目(35日齢)は大粒区206cpm,中粒区1,151cpm,細粒区1,379cpm,28日目(49日齢)はそれぞれ737cpm,1,139cpm,1,170cpmとなった。28日目(49日齢)を越えると,塵埃濃度は急激に減少した。さらに各区の差は小さくなり,42日目(63日齢)は大粒区 79cpm,中粒区 70cpm,細粒区 99cpm,試験終了時の70日目(91日齢)はそれぞれ128cpm,130cpm,113cpmとなった。
 飼育後期における NH3濃度の推移について第 2図に示した。NH3濃度は42日目(63日齢)までは全体的に0〜10ppmで推移したが,70日目(91日齢)には急激に高くなった。粒径別にみると大粒区の NH3濃度は14日目(35日齢)0ppm,28日目(49日齢)1ppm,42日目(63日齢)5ppm,中粒区はそれぞれ1ppm,4ppm,5ppm,細粒区はそれぞれ4ppm,10ppm,10ppmとなった。70日目(91日齢)は大粒区 21ppm,中粒区 41ppm,細粒区 29ppmとなり,各区とも NH3の発生がすすむ傾向が認められた。
 飼育後期における床材水分の推移を第 3図に示した。床材交換後の新しい床材水分は約20%であった。42日目(63日齢)までは各区とも25〜35%の範囲で推移した。56日目(77日齢)では42日目(63日齢)に比べて各区の水分含量は増加したが,区による差は認められず42〜45%程度となった。70日目(91日齢)は大粒区63.5%,中粒区42.7%,細粒区48.8%となり,56日目(77日齢)に比べて大粒区では約20%増加,中粒区,細粒区はほぼ同じ値となった。
 塵埃濃度, NH3濃度及び床材水分間の関係では,塵埃濃度は28日目(49日齢)時を越え42日目(63日齢)になると急激に低くなり,逆に NH3濃度,床材水分は42日目(63日齢)を越えると高くなった。
 人工砂粒径別の雌雄平均育成率,生体重及び飼料要求率を第 2表に示した。70日目(91日齢)までの育成率は 93.1〜95.3%で差は認められなかった。生体重は,28日目(49日齢)で,大粒区1,428g,中粒区1,393g,細粒区1,289gとなり,大粒区に比べて,中粒,細粒区は軽く,70日目(91日齢)は,大粒区3,195gと中粒区3,214gはほぼ同じ値,細粒区は3,124gで大粒区,中粒区に比べて軽くなる傾向が認められた。28日目(49日齢)までの飼料要求率は大粒区2.08,中粒区2.17,細粒区2.27と大粒区に比べて,中粒,細粒区が大きくなった。70日目(91日齢)までの飼料要求率は大粒区3.00,中粒区3.01,細粒区3.09とほぼ同じ値となった。






 2 露天放飼試験
 放飼期間及び放飼終了後の土壌区,人工砂区の断面状況の変化を第 4図に示した。放飼期間中の床材表面は,土壌区では放飼開始後 2週後でふんの堆積層が 5mmでき,その後ふん層の厚さが増加し表面が乾燥して固まった。人工砂区は床材中において 5mmの乾いたふん層ができ,表面にふんが堆積することはなかった。放飼終了直後では土壌区表面のふん層は10mm,人工砂床材中のふん層は15mmとなった。土壌硬度は土壌区で放飼前 2.12kg/p2,放飼中3.7kg/p2に比べて,放飼終了直後では12.4kg/p2 と表面にふんの堆積がすすむにつれて大きく増加した。人工砂区では放飼前 0.30kg/p2,放飼中の1.60kg/p2 に比べて放飼終了直後2.47kg/p2と大きな変化はなかった。放飼終了 8週間後の床材状況は土壌区の表面ではふん層が残っているのに対して,人工砂区では床材中のふん層はなくなった。また人工砂区の土壌硬度は放飼終了 8週後には放飼前とほぼ同じ値に回復した。
 第 3表に床材別の育成率,増体量,飼料要求率について示した。育成率は,土壌区97.5%,人工砂区97.6%,放飼期間中の増体量は,土壌区1.62kg,人工砂区1.67kg,飼料要求率は,土壌区3.06,人工砂区2.97となり大きな差は認められなかった。



考  察

 肉用鶏を平飼い飼育する場合,床材の違いによって床材水分や NH3濃度が変化するとされており3),床材が飼育環境に影響を及ぼすと考えられる。
 人工砂床材は,多孔質の構造を持ち,水分の吸水,発散性に優れている5)。床材水分の変化をみると,使用を開始してから42日間程度は大きく増加することなくほぼ一定の値となっている。床材水分の増加は鶏ふん中の水分が主な要因となる。日齢が進むと鶏ふん排泄量は増加するが,この期間は,粒径にかかわらず,人工砂床材によるふん中水分の吸水と発散がバランスよく行われており,見かけ上の床材水分に変化が見られないと考えられる。使用開始70日目では,大粒の床材水分が大きく増加している。中粒,細粒に比べて大粒は単位体積当たりの表面積が小さく,水分の発散が効率よく行われなくなったと考えられる。
 塵埃は飼育前半の中粒,細粒区で非常に高濃度で発生した。人工砂は嵩比重が小さいため中粒,細粒の中の粒径の小さい砂は重量が軽く,また飼育前半は床材水分25〜35%と低水分で乾燥していたため,鶏の運動によって床材が攪拌され塵埃が発生したと考えられた。飼育後半においては床材水分が増加し,一方塵埃濃度は低くなると考えられる。
 NH3 濃度は床材水分が高くなる時期から増加することから,ふんの排泄量が増加することによると考えられる。終了時70日目(91日齢)の NH3濃度は中粒,細粒,大粒の順に高くなっている。ふん中の NH3は水分に溶けた状態で存在するため,水分が蒸発する際に NH3は発生する。床材水分は大粒,細粒,中粒区の順に高いことから,床材水分の低い中粒区では水分の発散が盛んであると同時に NH3の発生も多くなったと考えられる。
 粒径別に49日齢時生体重,飼料要求率をみると,生体重は,大粒に比べて中粒,細粒が軽く,飼料要求率は劣る傾向が認められる。49日齢時までの中粒,細粒区の塵埃濃度は高く,塵埃は鶏の気道の生理的作用を妨げる1)とされていることから,塵埃の発生が生体重,飼料要求率に影響を及ぼしたと考えられる。91日齢時に最も NH3濃度が高い中粒区,最も床材水分の高い大粒区は生体重において細粒区を上回っていることから,今回の試験で発生した程度の NH3濃度,床材水分では鶏の発育に大きな影響は及ぼさないと考えられた。
 餌付け時から21日後の床材水分は,床材を敷き代えた22日齢以降に比べ低い値となっている。この期間は排泄するふん量が少なく,ガスブルーダーによる給温を行っていたためと考えられる。
 以上の結果から,鶏舎内において人工砂床材を使用する場合,粒径 1mm以下の細粒部分が多いと塵埃の発生によって鶏の生育に悪影響を及ぼすと考えられるため,この細粒部分の除去が必要である。
 露天放飼試験では土壌区,人工砂区の育成率,増体量,飼料要求率に差が認められなかったが,人工砂区の表面にふんが堆積することはなく,泥濘化もみられず表面にふん層の堆積する土壌区に比べて放飼場表面が清潔であった。放飼終了 8週後で人工砂床材中に存在したふん層はなくなり,土壌硬度も回復する。理由は明確でないが,乾燥したが微粉となって人工砂の間を落ちる,あるいは微生物により分解されることなどの機序が考えられる。
 以上の結果から,露天放飼場においても人工砂は床材として適当であり,放飼終了後 8週間経過すると放飼前の状態に回復することから,放飼場を連続的に使用する場合には人工砂床材が有利であると考えられた。


引 用 文 献

1)川崎晃(1980)空気の組成と鶏との関係.農業技術体系畜産編.東京:農山漁村文化協会.pp113〜116  
2)駒井亮(1978)ブロイラーの環境管理.ブロイラー.東京:養賢堂.pp102〜103
3)福光健二・深谷幸夫・羽田野一幸(1984 )ALCパウダ ーの鶏舎の敷料利用と除臭効果.畜産の研究,38(6) :88-90  
4)徳満茂・小島雄次・津留崎正信・亀井健(1996)コンクリート廃材を活用した地域特産用鶏‘はかた地どり’の放飼敷料材の開発.福岡農総試研報15:106〜 109  
5)増島博・根本清一(1972)土壌の力学性.土壌物理法測定法.東京:養賢堂.pp313〜314