福岡農総試研報16(1997)

乳用種去勢牛の良質肉安定生産技術
第3報 肥育中期の可消化養分総量(TDN)水準及び仕上げ月齢が産肉性に及ぼす影響


徳満 茂・中島啓介1)

(畜産研究所)

1)現甘木農林事務所


 乳用種去勢牛13頭を用い, TDN水準について肥育前期( 生後5〜12ヵ月齢)が70%の場合、肥育中期(12〜15ヵ月齢)及び肥育後期(15〜21ヵ月齢)を82%とした LHH区と肥育中期を77%、肥育後期を82%とした LMH区の 2区を設定し,混合飼料の不断給餌により増体量,飼料効率を検討した。また,19ヵ月齢及び21ヵ月齢の仕上げ月齢の違いが枝肉成績に及ぼす影響を検討した。@15ヵ月齢体重は LMH区が優れていたが,21ヵ月齢では両区とも約 790kgとなった。また乾物摂取量及び TDN摂取量は, LMH区が LHH区に比べて 12〜19ヵ月齢まで有意に多く推移した。A TDN摂取量が TDN総要求量より多かった期間は, LMH区が7〜15ヵ月齢, LHH区が7〜12ヵ月齢であった。B21ヵ月齢時に肥育を終了した場合のロース芯面積,脂肪交雑及び肉の色沢は優れており,19ヵ月齢に比べて肉質歩留等級「B3」の出現率が向上した。

[キーワード:乳用種去勢牛,肥育期,TDN水準,TDN要求 量]


     Fattening to Produce Fine Meat of Holstein Steers 3)Effect of Nutrition Planes on the Enelgy Requirement,the Dry Matter Intake and the Quality ofMeat.TOKUMITSU Shigeru,Keisuke Nakajima (Fukuoka Agricultural Research Center,Chikushino,Fukuoka 818,Japan) Bull.Fukuoka Agric. Res. Cent.16:96-100(1997)
     Effects of nutrition planes on the meat performance of fattening steer were investigated using 13 holstein steer calves.Nutrition planes were designated as Low-High-High and Low-Medium-High. On Low-High-High plane, steers were full fed 70% TDNlevels from 7 to 12 months old,82% TDN levels from 12 to 15 months old and 82% TDN levels from 15 to 21months old. On Low-Medium-High plane, steers were full fed 77% TDN levels from 12 to 15 months old. Fattening periods of animals were 19 or 21 months old.The obtained results were; (1)There was no significant differencein the average daily gain between two planes. It was1.11kg in each plane.(2) Becauce the dry matter intake was higher in Low-Medium-High than Low-High- High from 12 to15 months old,the TDN intake of Low-Medium-High was higher than the TDN requirement from 7 to 15 months old.(3)There were no significant differences in the dressed carcass traits between two planes. The rib-eye area, the marbling, the colour and brightness of the fattening periods of the 21 months old were better than the 19 months old. The results suggest that Low-Medium-High plane,is optimal,when maintained the 21 months old,

[Key words:Holstein steer,fattening,nutrition plane]


緒  言

 本県の肉用牛肥育経営は乳用種去勢牛が主体に飼養されており,牛肉の輸入自由化に対応する一つの方策として,輸入牛肉との競合性が高い乳用種去勢牛の肉質をより向上させて収益性を高める技術の開発が求められている。
 従来の乳用種去勢牛の短期間肥育は,高エネルギー飼料を肥育開始時より給与し,飼料効率(1kg増体に要する摂取量 )と 1日増体量を重視する肥育方式である。このような肥育方式のまま,肉質を向上させるために肥育期間のみを延長すると,飼料効率や増体量が悪化し,脂肪が付きすぎる点が問題となる。 このため,乳用種去勢牛を,体重が大きくて,枝肉格付けの優れた牛に早く仕上げるには,肥育期毎の至適栄養水準パターンの解明が新たに必要となっている。
 既報2,3)では肥育前期の混合飼料の TDN水準を70%,粗飼料給与割合を25%にすると乾物及びTDN摂取量が増加し,増体,ロース芯面積及び脂肪交雑が向上することを明らかにした。
 本試験では,乳用種去勢牛の産肉性向上のための混合飼料給与技術を明らかにするために,肥育前期の TDN水準を70%にした場合,肥育中期における TDN水準が,肥育中期及び後期の増体量,飼料摂取量及び TDN要求量に及ぼす影響,さらに仕上げ月齢と肉質の関係を検討した。


材料及び方法

 1 試験区分
 第 1表に各試験区の試験飼料の設計及び栄養価を示した。
(1) 肥育期及び仕上げ月齢
 肥育前期(前期)は7.3〜11.9ヵ月齢の20週間,肥育中期(中期)は11.9〜15.5ヵ月齢の 16週間とした。肥育後期(後期)は仕上げ月齢別に21月区では15.5〜21.4ヵ月齢の26 週間,19月区では15.5〜19.2ヵ月齢の16週間とした。
(2) 栄養水準
 混合飼料中のTDN水準及び粗飼料割合を各区ともに,前期は70%及び22%とし, LHH区は中期・後期ともに82%及び10%,また, LMH区は中期は77%及び16%,後期 は82%及び10%とした。
(3) 供試頭数
 各区の試験頭数は,栄養水準別に LHH区7頭, LMH区6頭の合計13頭とした。また仕上げ月齢別の枝肉調査頭数は,起立不全等の牛を除いた LHH区及び LMH区を合わ せて19月区 6頭,21月区 5頭とした。


 2 飼養管理
 試験用混合飼料は,2〜 3cm程度に細断した稲ワラ,粗砕したヘイキューブ,加熱圧ペントウモロコシ,一般フスマ,専管フスマ,皮付き圧ペン大麦,炭酸カルシウムを第 1表の割合で配合し,飼料撹拌機で混合・調製して作成した。
 管理は,鉄骨スレートぶきの肉用牛舎内に試験牛をつなぎ飼いし,個体別に不断給餌した。給餌回数は 1日 3回とし,残飼の測定は毎日行った。各肥育期における試験飼料の切り替えは 4週間かけて行った。除ふんは毎日行い,鉱塩は自由舐食とした。体重測定は 4週間隔で行った。
 試験期間は1993年 4月20日〜1994年 6月28日とした。

 3 調査項目
  調査項目は体重,飼料摂取量,栄養摂取量,飼料効率(1kg増体に要する摂取量 ),栄養要求量,枝肉成績とした。栄養要求量は,日本飼養標準4)に基づき各肥育期の代謝体重及び 1日当たり増体量より求めた。枝肉成績は日本食肉格付協会の格付けに基づき評価した。 


結 果

 1 増体量及び飼料効率
 肥育期毎の増体量及び飼料効率を第 2表に示した。
 体重は,前期開始時及び中期開始時では LHH区及び LMH区は約 310kg及び約 490kgとほぼ同じであった。後期開始時では LMH区は 630kgとなり LHH区の 618kgに比べて12kg重かったが,肥育終了時は両区とも約790kgとなった。
 1日増体量は,前期では LHH区及び LMH区とも約 1.3kgとほぼ同じであった。中期では LMH区は1.18kgとなり, LHH区に比べて0.06kg多く,後期では LHH区が逆に0.93kgと LMH区に比べて僅かに多くなったが,全期間では両区とも 1.11kgと全く同じであった。
 1頭当たり乾物摂取量は,全期間では LMH区は 4,603kgとなり, LHH区の 4,239kgに比べて 364kg多く, 1日当たりの乾物摂取量も LHH区の9.77kgに比べて0.84kg多い10.6 1kg となった。 1頭当たりの TDN摂取量は,全期間では LMH区は3,409 kgとなり, LHH区の 3,267kgに比べて 142kg多く, 1日当たりの TDN摂取量も LMH区は0.32kg多かった。乾物当たりの飼料効率は,全期間では LMH区は9.55kgとなり, LHH区の8.80kgに比べて0.75kg悪く, TDN当たりの飼料効率も LHH区の6.78kgに比べて約 0.29kg悪かった。


 2 肥育期毎の乾物摂取量及び TDN摂取量の推移
 肥育期毎の乾物摂取量及び TDN摂取量の推移を第 1図に示した。
(1) 乾物摂取量
 前期では両区とも前期開始時約 8.5kgであったが,約10ヵ月齢で約11kgと急速に増加した。中期では, LMH区は11〜10kgで推移し,LHH 区の10〜 9kgに比べて約 1kg多く推移した。中期の LMH区の TDN水準77%は, LHH区の82%に比べて 5%低いが, LMH区の乾物摂取量は逆に約10%多かったことから, TDN水準と乾物摂取量の間に負の関係が認められた。また,後期では両区の TDN水準が82%と同じにもかかわらず,後期開始16週間後の19ヵ月齢までは,中期と同様に LMH区が LHH区に比べて多く推移した。その後の19〜21ヵ月齢は両区とも急減したが,原因は不明であった。
(2) TDN摂取量
 前期では, TDN摂取量は乾物摂取量と同様に両区とも 6kgから 8kgまで増加した。中期では, TDN水準の低い LMH区の TDN摂取量は約 8kgで推移し, LHH 区に比べて約 1kg多く推移し,乾物摂取量と同様に, TDN 水準と TDN摂取量の間に負の関係が認められた。この傾向は,後期開始 16週間後の 19ヵ月齢まで継続した。その後の19〜21ヵ月齢は両区とも乾物摂取量と同様に急減した。 以上より,中期の TDN水準が低い LMH区は, LHH区に比べて中期の乾物摂取量及び TDN摂取量が有意(P<0.05 )に多く推移し,その傾向は後期開始後16週間後の19ヵ月齢まで認められた。


 3 肥育期毎の TDN総要求量(DERC)及び TDN摂取量  
 肥育期毎の TDN総要求量(DERC)及び TDN摂取量の関係を第 3表に示した。
 前期の TDN摂取量は, LHH区及び LMH区では7.20kg,7.14kgとなり,DERCに比べて0.60kg及び0.45kg多かった。中期は LHH区ではDERCと同じ7.67kgとなったが, LMH区のTDN 摂取量は LHH区に比べて0.58kg多い8.25kgとなり,DERCに比べても0.33kg多かった。
 後期の TDN摂取量は,15〜19ヵ月齢の LHH区及び LMH区では7.75kg及び8.11kg,15〜21ヵ月齢のLHH区及びLMH区では7.68kg及び5.92kgとなり,DERCに比べて15〜19ヵ月齢は 0.58kg,0.44kg,15〜21ヵ月齢でも0.69kg,2.43kg少なくなっており,両区とも仕上げ月齢に係わらず, TDN摂取量が相対的に不足する傾向が認められた。
 また,体の維持に要する TDN要求量と成長・肥育に要する TDN要求量の比(DEM:DEG)は,前期では両区とも48:52 と同じであった。中期では両区とも約53:47となり,前期とは逆に DEMの割合が DEGに比べて約 6%多かった。後期も同様な傾向にあり15〜19ヵ月齢でも,両区とも約56:44,15〜21ヵ月齢では59:41となり,DEMの割合が DEGに比べて約 18%多かった。
 以上のとおり,中期のLMH区はLHH区に比べてTDN水準が5 %低いにも係わらずTDN摂取量が多く,DERCを上回ったが,後期は両区とも下回った。またDERCに占める DEMの割合は各肥育期とも両区に差は無かったが,両区とも前期に比べて中期及び後期は増加し,逆に DEGの割合は相対的に低下する傾向があった。


 4 仕上げ月齢と枝肉の歩留肉質等級 
 仕上げ月齢別の枝肉成績を第 4表に示した。
 枝肉重量は,21月区では 463kgとなり,19月区の 420kg に比べて43kg重かった。 
 ロース芯面積は21月区が 48.6cm2と大きく,バラの厚さも 7.0cmと厚く,19月区に比べて優れた。皮下脂肪の厚さは21月区は 2.0cmとなり,19月区に比べて 0.3cm厚かった。
 部分肉歩留の指標である歩留まり基準値は,ロース芯面積,皮下脂肪の厚さを反映して19月区に比べて21月区が高かった。脂肪交雑は21月区がBMSNo3.0と高く,肉色も BCSNo 3.6と優れていた。肉の締まり・きめ等級は21月区が3.0と高かった。脂肪の等級は両区に差は無かった。
 肉質等級は,21月区は全頭がB3等級と優れていたが,19月区は 2等級が 5頭, 3等級が 2頭となり, 3等級出現率は30%と劣った。


考  察

 乳用種去勢牛肥育における前期飼料の栄養水準及び飼料効率と肉質について検討した結果, TDN水準が75%に比べて70%と低く制限すると飼料効率が相対的に良く,また,粗飼料給与割合を25%にする事によりロース芯面積,皮下脂肪厚,脂肪交雑等の肉質が向上することを報告した2,3)。
 本試験では,前期に続く中期における TDN水準が増体,乾物摂取量及び TDN摂取量と TDN要求量に及ぼす影響を検討した結果,中期の TDN水準82%に比較して77%と 5%制限すると,逆に乾物摂取量は約10%以上多く, TDN摂取量も多くなっている。このことは,給与飼料の TDN水準とその摂取能力と増体の効率について何らかの交互作用1)が生じている可能性が示唆される。
 この中期における LMH区の TDN摂取量は, TDN総要求量(DERC)に比べて0.33kg多い。このDERCは,体の維持に要するTDN 要求量( DEM)と成長・肥育に要する TDN要求量( DEG)を合計したものであり,本試験の中期の DEMは両区とも約4.1kg と同じであるが, DEGは, 1日当たりの増体量が多いLMH 区が LHH区に比べて0.20kg多い3.80kgとなっている。このため中期の TDN水準を77%に制限すると乾物及び TDN摂取量の増加により増体量が向上し,体重の増加に伴ってこれらの摂取量と増体量がさらに増加したと考えられる。
 しかし,DERCに対する DEM及び DEGの割合は,中期では両区とも53%及び47%と同じである。両区の飼料構成の違いは, LMH区が LHH区に比べて粗飼料が約 6%多く,濃厚飼料中の一般フスマが約 8%多く,トウモロコシが13%少ない程度である。また乾物摂取量の増加により増体量が向上しているため,両区の飼料エネルギーの代謝率( q)及び成長・肥育における代謝エネルギーの有効率(Kf)は低下していない。 TDN水準を制限するために飼料内容を変える際は,濃厚飼料構成のみを大きく変更するのではなく,粗飼料と濃厚飼料の構成をバランス良く調整することにより,中期の増体量を相対的に向上させながら効率的な肥育を行うことが可能であることが示唆される。
 このように,前期 TDN70%の低エネルギー飼料からいきなり TDN82%の高エネルギー飼料を給与するよりも,77%の中エネルギー飼料を給与する方が TDN摂取量と増体量が向上しており,効率的な肥育技術と考えられる。さらにこの向上効果は高 TDN飼料を給与する後期開始後16週間認められるがこの原因は不明である。
 肥育期間の長短が枝肉の歩留まり肉質等級に及ぼす影響では,TDN水準と仕上げ月齢の間に相互効果は認められなかったが,両区とも19ヵ月齢から21ヵ月齢に肥育期間を10週間長くすることにより「B3」の出現率が向上している。また,ロース芯面積,脂肪交雑,バラ厚,肉色等主要な肉質項目について優れており,本飼料給与パターンの場合の乳用種去勢牛の良質肉生産の仕上げ月齢は20〜21ヵ月齢の範囲にあると考えられる。
 以上より,乳用種去勢牛の良質肉生産に適した仕上げ月齢は21月齢とし,この場合の飼料給与方式は,乾物及び栄養摂取量を向上するために前期−中期−後期の TDN水準を低−中−高と段階的に高めていく方法が望ましいと思われる。
 今後は乳用種去勢牛について短期間に良質肉を生産できる大型仕上げ技術として,栄養水準パターンと同時に肥育期段階毎に維持と肥育・成長に要する栄養分配技術を加えた栄養管理指標の研究が必要と思われる。


謝  辞

 本試験の肉質検査等の実施にあたり,協力いただいた福岡食肉市場株式会社に深謝する。


引 用 文 献

1)善林明治(1993):ビーフプロダクション,養賢堂,東京,p260.
2)中島啓介・後藤 治・大石登志雄(1993)乳用種去勢牛の良質肉安定生産技術(第1報)肥育前期飼料のエネルギー水準が肥育性に及ぼす影響.福岡農総試研報C−12 :13〜16.
3)中島啓介・後藤 治・福田憲和(1994)乳用種去勢牛の良質肉安定生産技術(第2報)肥育前期の粗飼料給与割合の違いが産肉性に及ぼす影響.福岡農総試研報C−13: 1〜4.
4)農林水産技術会議編,日本飼養標準(1995)中央畜産会:p117.