福岡農総試研報16(1997)

蒸散抑制による夕方収穫したナスの鮮度保持

池田浩暢,茨木俊行

(生産環境研究所 流通加工部)

 雰囲気湿度条件及び出荷資材が夕方収穫したナスの鮮度に及ぼす影響を検討した。
 ナス果実の蒸散量は,高湿度条件下及び低温条件下で抑制されたが,その効果は高湿度条件下でより顕著であった。予冷が夕方収穫したナス果実の鮮度に及ぼす影響は認められなかった。ナス果実の雰囲気湿度を高く保つと,減量率は抑制され,果実硬度は高く保たれた。夕方収穫したナス果実を,ポリエチレンフィルムを内装した普通段ボール容器か,有孔ポリプロピレンフィルム袋で個包装した後普通段ボール容器,またはポリエチレンフィルムを内貼りした機能性段ボール容器に詰めると,雰囲気湿度を高く保つことができた。これらの場合,慣行の早朝収穫しプリメラ紙内装段ボール容器で出荷したものより鮮度保持効果が高かった。

[キーワード:ナス果実,夕方収穫,蒸散抑制,雰囲気湿度]


     Effects of reduction of transpiration on maintaining the quality of eggplants harvested in the evening. IKEDA Hironobu, Toshiyuki IBARAKI (Fukuoka Agricultural Research Center,Chikushino, Fukuoka 818 Japan) Bull. Fukuoka Agric. Res. Cent. 16:59-62 (1996)
     The effects of relative humidity and the conditions of shipping containers on the quality of eggplants harvested in the evening were investigated. The transpiration rate of eggplants decreased at high humidity and low temperature. Storing eggplants at a high humidity was more effective for the reduction of the transpiration rate than storing them at a low temperature. Precooling was tried also but there was no significant effect on maintaining the quality of the eggplants. Since eggplants were stored at high humidity, the weight loss of eggplants was reducedand the hardness of eggplants was kept. For determining the effect of keeping a high humidity, a normal corrugated container with a polyethylene film packaging bag, a perforated corrugated container with polypropylene film packaging bags and a corrugated container with a polyetylene laminated liner were used as shipping containers. The methods mentioned above contributed to maintaining a high relative humidity for eggplants harvested in the evening. The quality of the eggplants was better maintained than for those harvested in the morning and packed in usual corrugated shipping containers with inner oilpaper packaging .

[Key word:eggplant fruits, harvested in the evening, relative humidity, reduction of transpiration rate]


緒  言

 現在,福岡県産の冬春ナスは早朝のみ収穫され,集荷・選別作業を経てその日のうちに出荷されている。このため農家では午前中に,選果場では10時から14時頃までのごく限られた時間帯に労働が集中し,これが規模拡大の妨げとなっている。この対策として,夕方などの早朝以外の時間帯に収穫することが有望と考えられるが,このような果実は収穫時の品温が高いために,鮮度が早くから低下することが懸念される。
 一方,ナス果実は蒸散作用の激しい野菜の 1つであり8),蒸散により水分が失われると,果皮の光沢や張りがなくなり見た目の鮮度は著しく低下する。このためナス果実の鮮度を保つためには,蒸散作用を抑制することが有効な手段であると考えられる。現在,ナス果実は新聞紙を内装したコンテナに収穫され,出荷資材には開封時の商品性を高めるために光沢のある紫色の油紙(プリメラ紙:PM)を普通段ボール容器に内装したものが用いられている。しかし,これらの資材には雰囲気湿度を高める効果はなく,そればかりか,逆に低湿度状態となり表面の光沢が失われやすい欠点がある。品温が高い条件下で収穫された青果物の鮮度保持技術として,予冷により品温を下げることで呼吸速度を抑制でき,内容成分が保持されることは報告されているが5〜7),雰囲気湿度を制御した場合の鮮度への影響について検討したものはない。
 そこで,雰囲気湿度及び予冷がナス果実の鮮度に及ぼす影響を検討し, 2, 3の知見を得たので報告する。


試験研究方法

 供試野菜
 1994年 6月から1996年 7月までに,福岡県山門郡瀬高町でハウス栽培されたナス‘筑陽’を試験に用いた。夕方収穫は17時から17時30分の間に,早朝収穫は夕方収穫した翌日の 6時から 6時30分までの間に行った。また,収穫時の果実品温は温度記録計(コーナシステム製:KADEC-U2型)を用い,果実の中心部分に針状の温度感温部を刺入して測定した。

 試験1.雰囲気湿度及び温度がナス果実の蒸散量に及ぼす影響
 1994年 6月から 7月に収穫したナス果実を試験に用い,低湿度条件下及び高湿度条件下における蒸散量を測定した。低湿度区は果実12本をPMで包装した後普通段ボール容器に入れた。また高湿度区は,果実 3本を有孔ポリプロピレンフィルム袋(慣行の小売り用小袋,大きさ:340mm×216mm,両面に直径 6mmの穴が 4ヶ所ずつ計 8ヶ所開いている,以下OPP袋と略す)で包装し,その 4袋を普通段ボール容器に入れた。温度別の蒸散量を測定するために,これらの果実を10℃〜45℃に制御した貯蔵庫内に入れ一夜保存し,品温が安定した時点及びそれから15時間後の果実重量を測定した。単位時間あたりの重量変化量から蒸散量を算出した。

 試験2.収穫後の処理が夕方収穫したナス果実の鮮度に及ぼす影響
 1996年 6月から 7月に収穫したナス果実を試験に用いた。高湿度及び低温の効果について検討するために,まず収穫した果実を慣行の低湿度区(a区)及び高湿度区(A区)に分けた。a区は慣行の新聞紙を内装したコンテナに入れ上部をハンカチ折りしたもの,A区は厚さ0.03mmのポリエチレンフィルム袋(PE)を内装したコンテナに入れ上部をハンカチ折り包装したものに分け,直ちに農業総合試験場に搬入した。試験場到着後のa区,A区の果実を,無予冷区(b区)及び予冷区(B区)に分けた。b区は室温(平均:23.4℃)に保存し,B区は 8℃の貯蔵庫にて翌日の10時まで強制通風予冷した後,減量率及び果実硬度を測定した。果実硬度は,ナス果実を縦に半分に切断し,レオナーメーター(山電製: RE-3305型,プランジャー:直径10mmの球形,台座スピード 1mm/秒)を用いて,果実表面が 3mm歪むのに要する力(g)を測定した。測定は各区10反復で行った。

 試験3.出荷資材がナス果実の鮮度に及ぼす影響
 1995年 6月から 7月の夕方及びその翌日の早朝に収穫したナス果実を試験に用いた。夕方収穫した果実は,PEフィルムを内装したコンテナに入れ上部をハンカチ折り包装した。これを農業総合試験場に搬入し,翌日の13時まで室温(平均: 24.3℃)に放置した。早朝収穫した果実は,慣行の新聞紙を内装したコンテナに入れ上部をハンカチ折り包装し,直ちに試験場に搬入した。これらの果実36本を第 1表に示す出荷資材に詰め,室温(平均:24.7℃)に 7日間放置した。出荷資材内の雰囲気湿度を測定し,減量率,果実硬度及び総合鮮度を経時的に調査した。出荷資材内の雰囲気湿度は,温湿度記録計(コーナシステム製:KADEC-U2型)を用いて測定した。総合鮮度は,減量率,果実硬度及び果皮の光沢を考慮して評価した。総合鮮度の指標は, 4:収穫時の状態, 3:市場出荷可能, 2:小売り可能, 1:食べられる, 0:食べられないとした。減量率,果実硬度及び総合鮮度の調査は各区10反復で行った。


結果及び考察

 試験1.温度及び雰囲気湿度がナス果実の蒸散量に及ぼす影響
 温度及び雰囲気湿度条件がナス果実の蒸散量に及ぼす影響を第 1図に示した。低湿度条件下の場合,蒸散量は低温ほど,特に25℃以下の温度域で抑制された。蒸散量と温度との関係について温度が10℃上昇したときに蒸散量が何倍になるかで表すと,貯蔵温度を10℃から20℃に上げた場合は 1.1倍,同様に20℃から30℃の場合は 1.7倍,30℃から40℃の場合は 2.4倍となり,同じ10℃の温度差でも貯蔵温度が高くなるほど蒸散量は増加した。このことから,低湿度条件下では貯蔵温度が高いほど温度降下による蒸散量抑制効果が期待できることが明らかになった。
 同じ温度条件であれば,高湿度条件下は低湿度条件下に比べて蒸散量を顕著に抑制することができた。低湿度条件下で10℃にて貯蔵した場合の蒸散量は,高湿度条件下で40℃で貯蔵した場合の蒸散量とほぼ同じであった。慣行の低湿度条件下では,夕方収穫時の品温に相当する33℃の果実の蒸散量は2.9g/dayであった。これを高湿度条件下で貯蔵した場合,蒸散量は低湿度条件下の約 5分の 1(0.6g/day)にまで抑制することができた。一方,品温が33℃の果実を10℃まで低下させたときの蒸散量は1.2g/dayであり,温度降下による蒸散抑制効果は高湿度条件より劣った。
 したがって,ナス果実の蒸散量を抑制するためには,品温を下げることよりも,雰囲気湿度を高く保つことが効果的であると考えられる。

 試験2.収穫後の処理が夕方収穫したナス果実の鮮度に及ぼす影響
 雰囲気湿度及び予冷と,夕方収穫したナス果実の翌日出荷時における減量率,果実硬度との関係を第 2表に示した。減量率に影響を与える要因としては呼吸による糖,酸含量の減量や,蒸散による水分の減量が考えられる。しかしナス果実の場合,呼吸速度は非常に小さく3),基質としての糖含量も少ない9)ので,呼吸による減量はごくわずかである。このため,減量率の大部分は蒸散によるものであると考えられる。したがって,ナス果実の減量率は試験1の蒸散量に相当する。翌日出荷時における夕方収穫したナス果実の減量率は,Ab区で最も低く,aB区で最も高くなった。このときの貯蔵中の雰囲気湿度は,Ab区で94.9%(最低86.7〜最高97.0%),aB区で77.2%(同55.2〜92.0%)であり,高湿度条件下ほど減量率は抑制され,試験 1の結果を裏付けた。一方,予冷(B区)が減量率に及ぼす影響は認められなかった。このときの貯蔵温度はb区で22〜24℃,B区で 8〜10℃であり,25℃以下の温度域では蒸散量はほぼ一定であるという試験 1の結果を裏付けた。同様に,果実硬度もまたPE包装した果実(A区)で高く保たれたが予冷の効果はほとんど認められなかった。さらに,予冷した果実(B区)の一部では果皮の光沢の低下が認められた。
 したがって夕方収穫する場合には,収穫はPEを内装したコンテナを用い上部をハンカチ折り包装し,集荷までは予冷せずに室温に放置すると良いと思われる。


 試験3.出荷資材が夕方収穫したナス果実の鮮度に及ぼす影響
 用いた出荷資材内の雰囲気湿度は,PM内装普通段ボール容器で平均91.5%(最低86.4〜最高94.4%),PE内装普通段ボール容器で98.8%(同96.9〜99.7%),OPP袋で98.1%(同97.4〜99.6%),機能性段ボール容器で95.1%(同92.8〜97.3%)であり,PE内装普通段ボール容器内で最も高く,PM内装普通段ボール容器内で最も低かった。
 出荷資材と減量率の関係を第 2図に示した。PM内装普通段ボール容器に入れた果実では,夕方収穫したもの(試験区@)では試験開始 2日後から,翌朝収穫したもの(試験区D)でも 3日後(収穫 2日後)から減量率は高く推移し, 7日後には約 5%に達した。一方,PE内装普通段ボール容器に入れた果実(試験区A),OPP袋に個包装後普通段ボール容器に入れた果実(試験区B)では減量率は低く推移し, 7日後における減量率は試験区Aの果実で 0.8%,試験区Bの果実で 1.3%であった。機能性段ボール容器に入れた果実(試験区C)においても減量率は抑えられたが, 7日後における減量率は約 2%に達し,試験区A,Bに比べやや高かった。
 出荷資材と果実硬度の関係を第 3図に示した。試験区@及びDでは,収穫 2日後より果実硬度は急激に低下した。一方,試験区A,B及びCの果実では,収穫後 3日以降で慣行の試験区Dのものより果実硬度は高く保たれた。減量率と果実硬度との関係を第 4図に示した。減量率と果実硬度との関係は一次式で近似することができ,相関係数は 0.858であった。このことから減量率を抑制することができれば,果実硬度を高く保つことができると考えられる。
 ナス果実には糖やビタミンCなどはほとんど含まれていないので9),総合鮮度を評価する場合には果皮の光沢,張りなどの外観や果実硬度を考慮する必要がある。出荷資材と総合鮮度の関係を第 5図に示した。PM内装普通段ボール容器に入れた場合,雰囲気湿度が低く推移したために果皮の光沢が失われ,張りがなくなり,試験区@では 2日後から,試験区Dでは 3日後から鮮度は急激に低下した。一方,夕方収穫した場合では試験区Aで最も鮮度が優れた。試験区Bでは減量率や果実硬度は試験区Aと同様に推移したが,雰囲気湿度がやや低かったために試験区Aに比べ評価が若干低くなった。試験区Cは,試験区A,Bに比べ減量率は高く果実硬度は低く推移したため,鮮度評価は低くなった。しかしながら,試験区B,Cとも収穫 7日後においても小売り可能な鮮度を保持することができた。
 雰囲気湿度条件とナス果実の鮮度の関係については,湿度条件は85〜90%が良いという報告4)や湿潤状態が望ましいという報告1)があるが,今までナスの最適湿度条件について正確に測定された報告はない。今回の試験結果より,ナス果実の最適貯蔵湿度は97%以上であると考えられた。
 以上のことから夕方収穫する場合には,まず収穫から集荷まではPEを内装したコンテナに入れハンカチ包装すると良い。また出荷する場合には,果実をPEを内装した普通段ボール容器か蒸散抑制効果のある機能性段ボール容器あるいは有孔ポリプロピレンフィルム袋で個包装した後に普通段ボール容器に詰め室温にて流通させる。これらの出荷資材を用いることでナス果実の雰囲気湿度を97%以上に保つことにより,蒸散は抑制され,表面の光沢や果実硬度が保持でき,夕方収穫した場合でも収穫 3日後以降では慣行の早朝収穫しPM内装普通段ボール容器で出荷したもの以上の鮮度保持が可能となった。





引 用 文 献

1) 阿部一博(1983)農業技術体系野菜編 12 共通技術・先端技術.品質・鮮度.東京:農山漁村文化協会,pp109〜113
2) 阿部一博・茶珍和雄・緒方邦安(1980)ナス果実の低温障害に関する研究(第 6報).園学雑 49(2):269〜276.
3) Adal A Kader(1987)Postharvest Physiology of Vegetables. New York and Basel Marcel Dekker Inc.,pp581
4) American Society of Heating Refrigerating and Air-conditioning Engineers Inc.(1968) ASHRAE GUIDE AND DATA BOOK.pp454〜483
5) 永井耕介・澤田富雄・吉川年彦(1993)実用予冷システムによる夏季キュウリの品質保持効果.近畿中国農研 85:54〜57.
6) 中川勝也・小林尚武・澤正樹・時枝茂行・永岡治 ・森俊人(1985)イチゴの収穫時期・収穫時刻帯と果実品質および良品のための内容成分モデルの設定.兵庫農総セ研  報 33:83〜88.
7) 大竹良知・田中喜久(1988)パック詰め前予冷によるイチゴ果実の鮮度保持.愛知農総試研報20:260〜268.
8) 樽谷隆之(1963)果実・そ菜の貯蔵.日食工誌 10(5):186〜202.
9) 科学技術庁資源研究調査会編(1990)四訂食品成分表.東京:女子栄養大学出版部,pp512